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2021.12.12

「ラストナイト・イン・ソーホー」

主人公の可憐さと、時代を隔てたソーホーの女の妖しさ、そして要所々々でのぞっとするような怖さとが混然となって、えもいわれぬよい感じです。ぞっとする感じのエッジが立っているおかげで味わいが濃くなっています。

二人の女性が入れ代わり立ち代わり現在と過去の夢の中を行き来するのを見ているうちに、こちらも時間の感覚が失われていきます。二人の切り換えが目まぐるしいのに滑らかなので、それと気づかずないうちに作品世界の中に取り込まれます。

お話は、女性が男性に奉仕するのが当然とされていた時代の歓楽街で自立を望んだ女の哀しい道行きという典型的な悲劇ですが、それを「思念の残滓が見えてしまう」現代の一人の女性が現身で追体験することで、現代の倫理観から見た過去への批判を含ませています。

そこにただ暗闇だけを見るか、それとも少し違うものを感じ取るかは、人それぞれでしょう。主人公は亡霊たちの懇願にどう答えたか。そのおかげで観ているこちらは呪縛が解けて我に返ることができます。

それにしても、この奇妙なお話の最後の種明かしには驚かされます。すべてが劫火に包まれながら終幕を迎えるとき、まるで落語の名人が演じる哀しくも美しい怪談を聞き終えたような、不思議な共感が沸き起こります。20世紀の終焉とともに消えていったいかがわしくも懐かしい匂いがそこにはありました。

近ごろ稀に見る味わいの一本です。

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