「キャッシュトラック」
初めから終わりまで暗く重い。冗談の欠片もなく見た後胃が重くなる。といっても社会的不正義の話ではなく、裏社会で起きた事故と復讐劇だから、我々一般人には関係ないといえばそうなのだが。
原題の「Wrath of Man」は「Wrath of God」のもじりだろうか。容赦のない怒りが本作のテーマだが、その怒りは決して露わにはされない。粗暴な振る舞いで人を脅して従わせる種類のものではないからだ。代わりにただ乾いた言葉と銃撃の重い響きだけがあり、かえって怒りの危険さを感じさせる。
復讐の理由を知ればむべなるかなと言いたいところだが、その切っ掛けが犯罪行為の下準備だったという点がなんとも微妙だ。やり場のない怒り、というのが一番近いだろうか。
ただ、この怒りには、もう1枚裏がありそうだ。本作の真の憎まれ役は、軍隊崩れのチーム内のただ一人、主人公の息子を殺した男のみに絞られている。分隊の他の面々は、犯罪行為に参加してはいるものの、綿密な作戦を立て摩擦を最小限に迅速に遂行する、規律を重んじるプロとして描かれている。ただこの悪役一人だけが、兵士としての規律を軽んじ、衝動的な行動で周りの全てに害を及ぼしている。
それを考えると、本作が描く怒りは、獣性の衝動そのものに向けられているとも思えてくる。マフィアの怒りも分隊の崩壊も、原因はただひとつなのだ。
それにしても、25年間FBIの追跡をかわし続けてきたマフィアと戦争帰りの分隊との闘いは重低音と金属音で満たされていて、硝煙の匂いこそないものの迫力満点だ。
込められたメッセージといい、銃撃戦の激しさといい、正直なところ、見て疲れる映画でした。
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