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2021.11.14

「アンテベラム」

これの何が面白いって、筋立ての意外性でしょう。
だから、未見の人は以下は読まない方がよいです。

冒頭で、過去は今に息づいている的な警句が意味ありげに掲げられたあと、アフリカ系・南米系に見える人たちが南軍の旗がはためく農場で働く少し古い感じの映像が来て、これは米国のプランテーションでの黒人虐待映画なのかなあと思わせます。セピアな色使いからは回想シーンだと窺わせるのですが、それにしても長いなと思っていると、収穫した綿花を燃やしているのが背景にちらりと見えます。

え? 今映ったのは何?

何気なく現実と少しだけズレた異常さが滲む映像を挟んで、不安感を煽ってきます。人影をチラ見せするような凡百のホラー映画と違うのは、それが一見普通に見えて実はそうでないところです。その意味はさっぱりわかりません。なかなか憎いですね。

この最初の農場シーンが、いくつかの簡潔なエピソードや含意のある言葉を含んでかなり長いので、この映画はもうこのままいくのかと思わされた頃に、いきなり携帯着信音の現代的な響き。見ている方は何が起きたのかわからずうろたえます。夢の中の話を長々とここまで引っ張ってきたのですねえ。それにしても長くてリアルな夢でしたね。なかなか酷いです。

舞台は現代の都市に移って、インテリの黒人女性の生活描写がしばらくあります。彼女が講演のために出張した先で、悪友たちと再会して楽しく飲み食いして宿へ帰ろうとするところで異変発生。目つきがおかしい白人の女とその一味に誘拐されてしまいます。なーんだ時空を超えた亡霊じゃなくて敵は普通の頭のいかれた人間だ。盛り上がってまいりましたね。

そして舞台は再び最初の農場へ。小屋で眠っているところを、またも携帯の音で起こされます。そうか。この農場は回想でも夢でもなくて現代なのか。という舞台回しの妙がやっと呑み込めます。
携帯のコール音は現代のゆるぎない表象だという作り手の確固たるセンスが突き刺さります。あの一瞬で全ての謎が氷解し軽いカタルシスを覚えます。心臓がばくばくしますね。

あとはこの地上の牢獄からの脱出劇です。アクション映画はこういうところで変に凝って多くの尺を費やすのですが、本作は心得ていて、比較的あっさりとしています。あっさりしていないのは、そこに埋め込まれたメッセージです。

黒人全体がこの牢獄から抜け出すためには、自ら手を汚すこともやむを得ない。看守はこちらを殺しにくるのだから、こちらも相手を殺す覚悟が要る。そういう物騒な考えを、短いシーンに強烈に込めて投げてきます。造反有理。思わず頷いてしまいます。おっかないですね。

それで、この映画はおしまい。
アンテベラムというのはWikipediaを見ると、南北戦争以前の合衆国南部のことだそうです。まさに今の時代に突き刺さる作品でした。

 

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