« 「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」 | Main | 「DUNE/デューン 砂の惑星」 »

2021.10.11

「由宇子の天秤」

見ているうちに襟を正して座り直すような、非凡な問題作。はじめのうちはよくあるマスコミ批判、学校批判なのだが、批判的な立場に立っている善人のドキュメンタリー監督が、身内の不始末で当事者の立場に巻き込まれることになったとき、それを等身大の問題としてどう感じ行動するかを描いている。

主人公は、善人らしく問題に向き合い、できる限り手を差し伸べ、理想と現実を両睨みしながら、問題を穏便に鎮静化させようとするのだが、見通しの甘さもあって、現実に手酷く裏切られたあげく、結局は最悪の破局を招いてしまう。

当の本人は、他人事の事件を追う立場からは真実の伝え手として振る舞う一方で、自分の身近な問題については、全く逆に、真実を隠蔽し、ことなかれで済まそうとするのだ。その2つの立場は、「善人」という視点から見るといずれも至極真っ当で、まるで矛盾を感じさせない。本作が提起していることの真の恐ろしさがそこにある。主人公が真摯であればあるほどに、問題は重くのしかかり、解決を難しくしているのが悲劇的だ。

幸か不幸か、ここに出てくる未成年を取り巻く課題を、私は身近に感じたことはない。ときどきニュースで見かければ、他人事としてありきたりな批判に軽く頷く程度でしかない。

けれども、人様の子供を預かるにあたって、どういうことに気を付けなければならないかについては、深く同意できる。


困っている人に手を差し伸べるには、簡単そうに見えても相応の力量が必要であること、とりわけ人間観察においては、過信は禁物であること、相手の人生を丸抱えする覚悟がないのなら、行動は自分の軸足を崩さない範囲ですること、など、本作から読み取るべき点は多い。

最も肝心なことは、自分が天秤の担い手であるなどと決して勘違いしないことだろうか。人は自分にできることしかできないのだから。

本年ここまでで、最も刺激的で深みのある憂鬱な作品でした。

|

« 「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」 | Main | 「DUNE/デューン 砂の惑星」 »

映画・テレビ」カテゴリの記事