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2021.09.05

「くじらびと」

こどもの頃、江戸か明治かそのあたりの時代に鯨漁に生きる人々を描いた児童向けの本を読んで、とても強い印象を受けたのを覚えている。木造の原始的な小船と銛とで立ち向かう鯨はあまりに偉大で、人々はありったけの血をたぎらせて、この神にも等しい動物に挑むのだ。鯨はもちろん仕留められることもあるが、人もまた多大な犠牲を払うことがあった。

そうして大きな犠牲を払って得た鯨を、人々は余さず活用し、食料として、また道具の材料として生活に役立てていくのだった。

そこには人と鯨とのフェアな関係があった。他の生き物を食うことで生きている全ての生き物に共通した摂理がそこには感じられた。
現代の文明人が、安全な鉄の大船に乗って、音波探知機で獲物を見付け、火薬の力で深々と打ち込む銛で、一方的なゲームでしかない殺戮を行う鯨漁とは、明確に違うものだ。

この映画には、文明人が失った摂理に基づいた鯨漁が描かれている。もちろん、画面に時々映るナイロンザイルや、切れ味するどい大型のナイフ、船を駆動する原動機など、文明の利器も混ざってはいるが、それでもなお、人々が鯨に捧げる畏敬と感謝は、まだ残っているように見えた。

1年で10頭の鯨を獲れれば、村全体が生きていける、という村人の言葉から、我々がくみ取るべきものは多い。環境に優しい、という21世紀の主要テーマの原点がそこにあるからだ。

この作品がクラウドファンディングで集めた資金で撮影されたのも好感が持てる。作品としての訴求力を持たせるために多少の編集はあるとしても、それは言うことでもないだろう。

海の民にカソリックが浸透している一方で、山の民の女性たちがヒジャブを付けたイスラム教徒らしいのも、インドネシアという国の複雑さを垣間見せていて興味深いところがあった。

自然ものが好きな方にはお勧めの一本。

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