「クーリエ:最高機密の運び屋」
キューバ危機といえば。自分が生まれるより少し前の話。観ているうちに、そういえば20世紀の半ばというのはこういう感覚が底流にあったのだったなあと親の話などから思い出す。米ソ冷戦という激しく対立する世界の構造が支配的だった時代だ。
いまから思うと、イデオロギーなどというものでそこまで激しく相手を憎まなくてもと思うけれど、その時代の渦中にいればそうは思わないものなのだろう。
本作は、そんな政治的対立の行き過ぎによって、自分の身近な家族が死の危険に晒されるのをなんとしても防ごうという人々の決死の行動とその代償を描いている。
彼らの行動が、危機の回避に与るところ大であったのは疑いないのだろうけれど、映画後半で描かれるその代償は後味の悪いものだ。市民的な立場からの勇敢な行いが、国家という非人間的なものに曳き潰される様が、かなりの時間を使って描かれる。
その悲惨な描写も終わり近くになって、国家の意思に抗って行動した双方の国の二人の人間の友情が、肉体的にはぼろぼろになりながらも、煌めきを見せる場面がある。囚われの英国人が看守に引きずっていかれながら、いずれ処刑されるであろうソ連の友人に、"You did it!"と何度も嬉しそうに叫ぶのだ。尋問室の隣でこれを聞いていたソ連の諜報関係者のやるせない様子を見れば、ソ連の人たちも、こんな世の中を早く終わらせたいと思っていたのだろうと思えて、それが本作の救いになっている。
過酷な時代にあって、命を代償に輝いた人たちのお話でした。
こういう世の中に逆戻りしないでほしいと切に願います。