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September 2021

2021.09.30

「クーリエ:最高機密の運び屋」

キューバ危機といえば。自分が生まれるより少し前の話。観ているうちに、そういえば20世紀の半ばというのはこういう感覚が底流にあったのだったなあと親の話などから思い出す。米ソ冷戦という激しく対立する世界の構造が支配的だった時代だ。

いまから思うと、イデオロギーなどというものでそこまで激しく相手を憎まなくてもと思うけれど、その時代の渦中にいればそうは思わないものなのだろう。

本作は、そんな政治的対立の行き過ぎによって、自分の身近な家族が死の危険に晒されるのをなんとしても防ごうという人々の決死の行動とその代償を描いている。

彼らの行動が、危機の回避に与るところ大であったのは疑いないのだろうけれど、映画後半で描かれるその代償は後味の悪いものだ。市民的な立場からの勇敢な行いが、国家という非人間的なものに曳き潰される様が、かなりの時間を使って描かれる。

その悲惨な描写も終わり近くになって、国家の意思に抗って行動した双方の国の二人の人間の友情が、肉体的にはぼろぼろになりながらも、煌めきを見せる場面がある。囚われの英国人が看守に引きずっていかれながら、いずれ処刑されるであろうソ連の友人に、"You did it!"と何度も嬉しそうに叫ぶのだ。尋問室の隣でこれを聞いていたソ連の諜報関係者のやるせない様子を見れば、ソ連の人たちも、こんな世の中を早く終わらせたいと思っていたのだろうと思えて、それが本作の救いになっている。

過酷な時代にあって、命を代償に輝いた人たちのお話でした。
こういう世の中に逆戻りしないでほしいと切に願います。

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2021.09.27

「虫籠のカガステル」

NETFLIXで2020年2月に配信開始の作品。全12話

基本的には吸血鬼やゾンビものと同様、人間が異形に変化して人を喰らう設定のもとにお話が展開する。それだけでいい話になる素地は十分だけれど、本作は加えて、虫に変化しない体質の人だけの世を作ろうとする勢力、人と虫との中間の存在、虫たちを統べる女王の存在など、面白さが5割増しくらいになっている。人と怪物との葛藤は既に普通の要素になり、その上で何を描くかという問いに、本作はひとつの回答を与えている。

前半は、巨大な虫の描写を交えて目を惹きつけながらも、そんな環境下でも息づく家庭的な雰囲気で進んでいく。それが、少女の覚醒と共に一気に急展開を始めて、わずか1日かそこいらの時間の中に、濃密な世界観と巨大な陰謀と政治勢力どうしのつばぜり合いとが投げ込まれ、最後まで一気に進む。

説明的な台詞が多いのは、この絡み合ったたくさんの要素をうまく処理するには必須だったのだろう。それがあまり気にならないのは、脚本の良さのおかげだろうか。

ひとつ惜しいと思ったのは、登場人物の絵柄が若すぎると思えるところ。主人公の少女はもう少し大人の設定でもよかったと思う。ジャパニメーション全体に言える傾向だが、そろそろ考え直してもいいのではないか。高齢化も進んでいることだし(笑)。

ともあれ、早回しで一気見しても面白さが保たれる良作でした。

 

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2021.09.20

「マスカレード・ナイト」

久しぶりに見る麻生久美子、よかったです。冷たい美人。嘘で塗りこめられた仮面の下の一片の誠。それが目的で見に行ったようなものだけど、作品としてはそこには焦点を当てず、むしろホテルマンと刑事との価値観の相違と止揚を中心に据えてきた。それはそれで前向きだという評価はできる。

東野圭吾原作の作品は、以前は結構面白いと思っていた。それは、本作では脇役扱いになった悲劇の方に焦点が当たっていたからだ。けれども本作は、どちらかというとTVっぽいつくりで、明るく前向きな未来に話を持って行っている。

それで、どうもコロナ以降、こういうものにピンとこなくなってしまっている自分に気付いたりする。映画としてはもちろんよくできているけれど、この前向きな感じの中に、つくりものの匂いがしてしまって、素直に喜べない。

一例をあげると、クライマックスのシーン。腕時計の遅れという伏線が回収されるんだろうなという予想が早々についてしまう稚拙さは措いておくとしても、刑事が扉を開けた後の行動がおかしすぎる。秒を争う展開の中で、あそこでは、祭壇にダッシュで駆け寄って状況判断、行動するべき場面だろう。入口で立ち止まるのはどうみてもおかしい。作り手が観客(読者)の心情をこの程度だろうと勝手に斟酌して、さあここは皆さん悲しんでいただく場面ですよといわんばかりの演出で、鼻につく。テレビ臭がするとでも言えばいいだろうか。

そういう上から目線の下手な演出に拒否反応が出てしまうのは、コロナで人の生き死にを身近に感じるようになった影響だと思うのだ。時代は変わりつつあるけれど、頭を切り替えられない作り手の作品は陳腐に映ってしまう。

まあ、そもそも高級ホテルなんてものに縁がないから、そういう世界もあるのかね、という目を養うにはよかったのかもしれない。

 

※そもそも、コロナを小ネタに使っているのに、登場人物全員マスクのマの字もしていないって、リアリティゼロですよ。作り手にすれば、非常に悩ましいところだよなあ。。

 

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「GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」

NETFLIX
シーズン1全24話

米国で米軍のかっこいいところを描いた作品はたくさんあるけど、日本で自衛隊のかっこいいところを描いた作品は少ない。戦国自衛隊とかだろうか。なんとなく正面切って持ち上げてはいけないような風潮がいまだにある。

本作は、そこを打破している。

本音を言うと、自衛隊とドラゴンが大バトルするのを期待して見た。それはもちろん多少あるものの、むしろ、二次元彼女たちと自衛官の絡みでストーリーが出来ているという怪作になっている。

基本は異世界異種族美少女な厨二全開の作風だ。その世界観の上に自衛隊が国外へ出ていくときの課題や葛藤を乗せている。

とはいうものの、結局は、現場自衛官や外交官の、よく言えば男気の発露、悪く言えば感情的な暴走で問題解決しているところは、まあ空想映画だから、エンタメとしてはそういうことになるのだろう。

そのほか種々視聴者へのサービスも怠らず、よい仕上がりでした。

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2021.09.13

「ケイト」

NETFLIX作品

女殺し屋の最後の1日という設定で、背景にやくざの抗争を絡めたアクション映画・・でいいのかな。これが日本以外でうけるとは思えないけれど、純粋に日本向けに作られたのだろうか。

それにしては主要な製作スタッフに日本人は居ない。外国人の頭の中にだけ存在する日本のイメージが具体化しているのだろう。この少し昭和っぽさの残る筋書きがどのくらい日本国内でうけるのか、少し興味あります。

とはいえ、そう悪い出来ではない。冒頭の作戦に失敗して逃げる派手なカーチェイスの部分はアングルの良さと視点の切り換えの妙で迫力が出ていた。

話の方も、初めのうちはスピード感はあるものの直線的すぎたが、後半にかけて良くなった。それと反比例して瀕死の主人公の動きは鈍ってきて、アクションの要素は背景に後退し、家族の裏切りというテーマが浮き上がってくる。前半と後半の盛り上がりの入れ替わりが、スムーズでいいバランスだった。

主人公を演じたメアリー・エリザベス・ウィンステッドさん、「ハーレイ・クイン」でハントレス演ってた人らしいけど、本作ではしっかり主役として立っていてよかったです。でも凄腕の殺し屋なのに自分の銃の残弾数を何度も忘れたりしてて、ちょっと微笑ましかった。

浅野忠信がいつもどおりの見事なやられ役でこれもよかった。首、胴体から離れてましたけど大丈夫でしょうか。

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2021.09.12

「アナザーラウンド」

売り文句だけ聞くと、ただの酒飲みのバカ騒ぎかと思うけど、見てみると全然違っていて、よい味わいの映画でした。

酒は百薬の長という言葉のとおり、適度のアルコールは人の気持ちを開放して、しらふのとき、様々な慣習や自制に囚われているときにはできない行動を取らせます。それが良いこともあれば悪いこともあるという話。

言葉だけでそんなことを言っても、まあそうだね、で終わるのですが、そこを具体的に見せて味わいを出すのが映画というもの。これだから映画を見るのはなかなかやめられません。

この作品は特に歌を効果的に使っています。デンマークの国歌をはじめ何曲か入っていますが、どれも曲・詩・声ともに美しく響いて、作品に品格をもたらしています。

マッツ・ミケルセンは普段は寡黙な渋い役が多いですが、本作では最後に楽し気に踊るシーンをたっぷり見せてくれます。悲しいことや辛いことがいろいろあった後でのこのシーン、感慨深いものがあります。

原題は"DRUK"で、オランダ語で「不完全な」くらいの意味だそう。腑に落ちました。

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「シャン・チー/テン・リングスの伝説」

ハオいわー。よいわー。
いやもちろん厳然たるハリウッド的文脈なので、ハオいという言葉は少し違うかもしれないけど。

父ちゃんと母ちゃんの馴れ初めがとってもいい。舞踊のような闘いの最中に惹かれ合う気持ちが芽生えてっていうところが美しいですね。血しぶき飛ぶようなハリウッドのこれまでの格闘シーンとは一線を画していて素敵です。

そこに限らず、格闘アクション全体に新味がある感じ。体全体を使った3次元的で大きな動きが見栄えがする。作用反作用の法則を無視した空中浮遊っぽい中華風味のアレも少しあるけど、超自然の力を感じさせるべき場面に限定使用して意味を持たせているのは、ちゃんと考えている感じでいい。

物語も千年くらいは当たり前の中国四千年感があってこれもよい。

父ちゃん、悪者と良い人の中間くらいで人間くさくてこれもいい。トニーレオンは香港では仕事はやりにくくなるのかしらん。この人は両親が離婚して母子家庭で育ったのね。翳のある厚みみたいなのはそういう生い立ちと関係あるのかも。このシリーズのどこかで復活してくれるといいなあ。

エンドロールの後に腕輪の謎に触れる映像が入っていて、お話がとんでもなくインフレしていきそうで期待が持てます。トラブル襲来の予感しかない。

現実の中国はこのところ俄かに娯楽規制が厳しくなり始めているそうだけど、このシリーズのようなものは影響されずに続けていってほしいです。本作のような作品が、中国と米国の普通の人たちに共有されて、対話の礎になればいいなと思いました。

主人公が習近平に似てるのは、まさか意図してたりしないよね?(笑)

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2021.09.06

「ドライブ・マイ・カー」

原作は村上春樹の小説。読んだことはないが、映画はたいへん素晴らしい出来上がりになっている。複雑かつ重層的、それでいて最後は奥深くシンプルというのが、この作品を味わった後の素直な感想だ。登場する人の生それぞれの翳りと、最も親しい夫婦の間にさえあるすれ違い、人と人の間に現れる輝ける何かを、じっくり見せてくれる。

その見せ方が凝っていて、演劇人である主人公が仕事で扱うチェーホフという劇作家の作中に現れる台詞が、そのまま本作の要所々々で人の心の裡を表すという仕掛けだ。そんなアクロバティックなことをしていながら、微塵も違和感を感じさせない。これは凄い。
似たような試みは以前も見たことはある気がするけれど、これほど密接に劇中劇が作品の本質に同化しているのは、たぶん初めて見る。

その劇中劇の台詞は、比較的早い段階で、本作の到達点を示している。人生は苦しくて辛いがそれでも我々は耐えて生きていくのです、そうすれば最後には神様がほめてくださります、という単純な真理だが、その時点ではまだ、この台詞は表層的にしか響かない。

それが、話が進むにつれて、手を変え品を変え、あるいは枝道でフラクタルな重なりを見せながら、1枚づつ覆いを剥がしてゆき、じっくりと存在感を増して、最後には、言葉にしてしまえば単純でしかないこの理が、鈍色に輝く本物として現れてくる。全てのテクストが頭に入っていてはじめて作品を理解できる、という主人公の言葉のとおりに。

しかも、この現れ方は暗くはない、むしろ明るさを伴っているのがまた凄い。パク・ユリムについて、あまり作品紹介などでは触れられていないけれど、彼女がその明るさを齎して作品を泥沼から引き揚げ引き締めている。


今年はコロナ禍で映画にとっては受難の年だが、本作1本が上映されたことで、実りのある年とすることができるのではないか。

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2021.09.05

「オールド」

毎度のナイト・シャマランです。公式サイトも予告編も、プロットのネタバレをやっているので、それは織り込み済み。この監督は、そうしたトリックの裏に、人生模様を織り込むのがスタイルなのです。

長い人の一生の中でじっくりと進行するドラマが、本作の中では1日のうちに起こります。その悲喜こもごもを描くのこそ、この作り手の本意であり、いつもどおりの方法論です。

それに気づいたのは、「ヴィジット」を見た時です。一見ホラーの体裁を取りながら、そこに描かれているものは老いの恐怖と醜さでした。それと同様の方法で今度は、老いの中にその人の生き様の凝縮を見せています。醜いもの、美しいもの、勇敢なもの、切ないもの、様々ある、そういう味わいに本作は落とし込まれています。

この状況を作り出すためのトリックについては、うまい説明だとは思うものの、そんな摩訶不思議な物質があるなら、そっちの方が科学子史上の大発見だろうと思うのですが、そこは適当にスルーして小道具としてのみ使うのが、この監督のやり方です。贅沢ですね(笑)。

だいぶこの人の手品に慣れてきたとはいえ、今回も楽しませてもらいました。

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「くじらびと」

こどもの頃、江戸か明治かそのあたりの時代に鯨漁に生きる人々を描いた児童向けの本を読んで、とても強い印象を受けたのを覚えている。木造の原始的な小船と銛とで立ち向かう鯨はあまりに偉大で、人々はありったけの血をたぎらせて、この神にも等しい動物に挑むのだ。鯨はもちろん仕留められることもあるが、人もまた多大な犠牲を払うことがあった。

そうして大きな犠牲を払って得た鯨を、人々は余さず活用し、食料として、また道具の材料として生活に役立てていくのだった。

そこには人と鯨とのフェアな関係があった。他の生き物を食うことで生きている全ての生き物に共通した摂理がそこには感じられた。
現代の文明人が、安全な鉄の大船に乗って、音波探知機で獲物を見付け、火薬の力で深々と打ち込む銛で、一方的なゲームでしかない殺戮を行う鯨漁とは、明確に違うものだ。

この映画には、文明人が失った摂理に基づいた鯨漁が描かれている。もちろん、画面に時々映るナイロンザイルや、切れ味するどい大型のナイフ、船を駆動する原動機など、文明の利器も混ざってはいるが、それでもなお、人々が鯨に捧げる畏敬と感謝は、まだ残っているように見えた。

1年で10頭の鯨を獲れれば、村全体が生きていける、という村人の言葉から、我々がくみ取るべきものは多い。環境に優しい、という21世紀の主要テーマの原点がそこにあるからだ。

この作品がクラウドファンディングで集めた資金で撮影されたのも好感が持てる。作品としての訴求力を持たせるために多少の編集はあるとしても、それは言うことでもないだろう。

海の民にカソリックが浸透している一方で、山の民の女性たちがヒジャブを付けたイスラム教徒らしいのも、インドネシアという国の複雑さを垣間見せていて興味深いところがあった。

自然ものが好きな方にはお勧めの一本。

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