« 「ラブ&モンスターズ」 | Main | 「フリー・ガイ」 »

2021.08.12

「ザ・ピーナッツバター・ファルコン」

NETFLIXで。

このセピアっぽい色合いの画像にまず惹かれたので観てみた。
中身はよくありがちな、ロードムービーの一種で、負け組の魂の救済の物語だ。わるくない。

俳優が見事にはまっていると思う。ダウン症患者役の人はもちろんだが、旅の途中で一行に加わる女性役が、ダコタ・ジョンソン。多少しもぶくれ気味で、人の警戒心を解かせるような緩いおかめ顔が、この話にどんぴしゃりはまる。

仕事もなく自信もなくむしゃくしゃのはらいせにやった放火がもとで追われる身になった男の役は、シャイア・ラブーフ。この人は実生活に問題があって、そのせいかどうかスターになるチャンスを逃してきたわけだけど、演技はうまい。身体障碍者を演じる短い作品で息を呑んだことがある。すごくうまい。その彼が、この負けて逃げ続けながらも、現状を受け入れずに夢を見る役をやっている。

そういう面々が織りなす貧乏素寒貧な旅だが、イリノイ川の大きな自然のなかでは、ちっとも不幸に見えないのが素晴らしい。これは、いわゆる勝ち組へのアンチテーゼなのだ。狭苦しい人間社会であくせく勝ち負けを気にしながら生きなくても、もっと別の生き方があるだろう、という。実に平凡極まりない作品だが、手を変え品を変え作り続けれらるのには、それが常に必要とされているという事情があるだろう。

途中、宗教がかったじいさんに助けられたこともあって、このロードムービーには、巡礼の旅のような色合いも多少ある。そのおかげで、安っぽさを免れているところもある。

タイトルは、プロレスラー志望のダウン症の男が自身に名付けたリングネームだが、田舎のプロレス興行で初めて短躯から捻りだす怪力を見せつけ人々の驚嘆を引き出すシーンは、本作の白眉であり祈りの具現化だ。そこが彼らの旅のひとつの節目となって、次へと向かうところで作品は終わる。

この先、ストレスだらけの現世をかいくぐって向かうフロリダに、果たして彼らの次なる夢はあるのだろうか。


いやー。なんか当たり前すぎる感想だけど、作品がそうなんだからしょうがない。でも良作です。

|

« 「ラブ&モンスターズ」 | Main | 「フリー・ガイ」 »

映画・テレビ」カテゴリの記事