「返校 言葉が消えた日」
B級テイストのホラーエンタテイメントでありながら、同時に、負の時代の影を織り込んで、最後にぐっと胸に迫る結末と後日譚へもっていく傑作。またいい映画を見てしまいました。
2019年の作品というから、台湾の総統選があった2020年1月に先立つ公開だったことになる。結果に少なからぬ影響を与えたともいわれることからも、強いメッセージ性を帯びた作品であることは言うまでもない。にもかかわらず原作はゲームだというから、まことに現代的な素性も持ち合わせている。風化しがちな記憶を新しい器に盛って見せたのが大ヒットの理由だろうか。
日本人にとって、太平洋戦争の暗い時代は遠い過去になりつつあるけれど、台湾の人たちにとっては、その後に続いた独裁時代は、まだそう遠くはなっていない。それに加えて、近年の大陸との摩擦のエスカレートは、ひとつ間違えば暗い時代の再来を招きかねないとの恐怖と緊張をもたらしている。
ちょうど、日本人が昭和末期からあの戦争を振り返るような、罪の意識を抱えながら明日をより良いものにしようとひたむきに足掻いていた時代を思い起こさせる。高度成長期に育った年寄りが胸に迫るものを感じるのもむべなるかな。
米国の傘の下にいた日本と違って、いまのところ自力で立つことが求められている台湾には、より強い決意が必要になっているだろう。
エンドロールの最後に出る
平凡で
自由に
という字幕が泣けます。
ただ、少し残念なことに、劇場を見回すと観客には白髪が目立つ。もっと若い人たちにもこうした作品の価値が広まるといいのだが。
ところで、主役を演じたワン・ジンさん、表情の作り方が上手いので、さぞ有名な女優さんなのだろうと思ったら、なんと14歳で小説家としてデビューしたのだとか。
世の中には才能に溢れた人っているものなんですねえ。ため息が出ます。