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2021.06.14

「HOKUSAI」

格調高い良作。江戸後期の町人文化というと軽めに描かれることが多い印象だが、本作は違う。

芸を極める話と権力からの抑圧に抵抗する話が絡み合いながら進んで、芸術とは何かという本質に迫っている。

若き北斎は、何のために絵を描くのか、という問い掛けに対して、自分にしか描けないオリジナリティという答えを追い求める。

対して、年老いてからの北斎は、「誰にも指図されずに生きる」ことに重きを置いているように描かれている。天保の改革で処罰された柳亭種彦という戯作者との交流に多くの描写を費やしているのが、その表れだ。奢侈禁止が実行される中で、芸一筋と見せながら、その核心では自由な精神を守り抜いたという解釈だろうか。

北斎の心中はわからないが、人物画ではなく風景や庶民の日常生活の描写で名を成したことも、改革の車輪に轢き潰されずに済んだ理由かもしれない。

柳楽優弥と田中泯が演じる北斎は、真面目一筋に描かれていて、知らずに襟を正させられる。

コロナ禍で世の中の不確実性が増している中で、他人に左右されない骨太な生き方を見せてくれる一本でした。

 

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