「クルエラ」
悪役をこんなにカッコよくエキサイティングに人情味溢れるストーリーで描いてしまっていいのか。ルパン一味ですかおまいらは。
ということで傑作です。
まあコロナの影響で映画館で映画を見るのが久しぶりなこともあって、少し感動バイアス多めに掛かっているかもしれませんが。
女性が主役とか、悪役キャラクタの再評価とか、今の流行を取り入れた作品は多いですが、本作はその一群の中でも頭ひとつ抜け出ています。
「ジョーカー」のように絶望的ではない。
「マレフィセント」のように無敵ではない。
「ハーレイ・クイン」のように破綻していない。
本作におけるクルエラ(エステラ)は、強い意志と輝く感性と繊細な気遣いと周到な計画性を持ち合わせた、どちらかというと尊敬に値する人物なのです。
これまでのどんな悪役より魅力的です。職業がファッションデザイナーという設定のお蔭かもしれませんが、全体に尖っていてリズム感があります。そして、職業があるということで、これが社会の一部であるという安心感もあります。
さらに、本作の勧善懲悪的な面を見るなら、クルエラはむしろ悪を懲らしめる側に立っています。悪役映画じゃないですね(笑)。
そしてなにより、本作には陰湿さがありません。悪が嫌われる理由は、所業の犯罪性ではなく、行動の陰湿さに負うところ大だと思うのですが、本作のクルエラにはそれが感じられません。
冷酷さがこのクルエラというキャラクタの特徴だそうですが、それはまだ悪い形では発現していない。心優しい母親の影響が残っています。次作でも、折々にその人間性が顔を出してくれると、とてもいいシリーズになりそうな予感がします。毒を持って毒を制す、それを、強制されてやるのではなく、彼女自身の感性に従って主体的にやっていく、というコンセプト。
本作で倒した相手の悪を、クルエラが受け継いで本物の悪に染まっていくのか、それとも悪の仮面を被った別の何かになっていくのか、今後が楽しみです。