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2021.04.12

「あの子は貴族」

いい映画を見たな、という感触がある。たぶん原作の力なのだろう。もちろん、映画としての演出も、あくまで穏やかな筆致でエッセンスを伝えることに成功している。


「はなこ」という名前を聞いて「花子」という字が思い浮かぶ自分は、どうみても庶民なのだが、もちろん本当は「華子」だ。

そういう庶民には、華子が暮らす世界は想像がつかない。その華子の世界から見てもさらに「私達より上のクラス」といわせるような世界は言わずもがなだ。だから、本作が描く庶民に無縁のいくつかの世界が、実在するのかどうかすら、実は知らない。興味を持って調べればある程度は分かるのかもしれないが、あいにく興味もない。

にも拘わらず、面白いことにこの作品は、それら異なる世界に共通するものを描き出すことで、リアリティを感じさせる。

地方都市で、親の暮らしをなぞることしか考えていない人たちと、庶民には窺い知れない世界で、やはり親..というか家が護ってきたものを継ぐことを運命づけられている人たちが、この作品の中では二重写しになる。一見、まったく異なる二つの世界の人々の中にある、同じ心の在り様を浮き上がらせている。夢なんてあるのかい、という御曹司の言葉は、本質を端的に捉えている。

どういう家柄、家庭環境であろうと、今とは違うものを目指して、夢を持って生きている人もいれば、何かを受け継ぐことだけが頭にある人もいる。本作はそういうことに気付きを与えて、それぞれの生き方に思いを致させてくれる。

穏やかな描写の中に、人の背中をそっと押すような控えめな鼓舞を忍び込ませている良作でした。

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