「ラーヤと龍の王国」
分断という、いまや猫も杓子も語るようになった大テーマがのっけからあっけらかんと示されて気色ばむけれど、そこはディズニーだから乗せるのは上手いのです。クライマックスまでは目を瞠るような映像と一緒に、軽い調子でとんとん拍子に話が進んで、最後の10分の意外な展開で泣かせます。実に手際がよい。ただ残念なことに深みは出ていない感じがあります。
信じる心が分断を解消する鍵、という主張はわかります。自分たちの心に巣食う不信というものが形を成したのがドルーンという魔物だということも作中でさりげなく触れられています。だからこのお話は、自分の内なる不信を乗り越えることを扱っているはずなのです。
ところが、このドルーンという怪異が、人の内の一部ではなくて、単なる外敵に見えるのです。すると何が起きるか。
危機迫るクライマックスでの主人公と敵役の振る舞いは意外性があって感動的ですが、二人がそんな行動に出た理由は、ほかに打つ手がないのが嫌でもわかったから。共通の外敵に囲まれて絶体絶命の窮地に立たされなければ、生まれることはなかった信頼関係。それは打算の色をどうしても帯びてしまいます。
この二人が、現実世界の1%の富裕層とそれ以外とを象徴するような描き方をされているのも、少し生臭さすぎたかもしれません。信頼を託されるのが1%の方とあっては尚更です。
そんなこんなで、見ている間は単純に感動できたのに、後付けで屁理屈を考えだしたら残念感が沸き上がってきてしまったという作品でした。東南アジアテイストは良い感じだし、アニメーションは申し分ないので、もう少し素直に楽しんだ方がよかったかもしれません。