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2021.03.14

「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」

お見事な着地でした。

私はエヴァ世代とは年齢が少し離れているので、本当のところはよくわからないし、魂が震えるほど感動したというわけでもないのですが、それでも本作が、これまでのとっちらかったあれこれを回収して、極めてオーソドックスなお話の筋に沿って完結させたということはよくわかります。

何のことはない。少年の成長物語です。それは何度見てもとてもいいものです。

世界は昨日とさほど変わらないし、人が受け継ぐべきものはきちんと受け継がれているし、変わるべきものは若い世代の中に確実に育って、時と共に入れ替わっていく。それだけのことでした。そして、入れ替わる狭間で、若者たちは親たちが同じようにそのまた親との葛藤や和解を経てきたことを知るのです。そういう骨組みをきちんと押さえた、骨太な筋に収まっていました。

もちろん、陰謀や神話やロボットやらのあれこれは十分楽しめましたが、そうした装飾の細かい整合性を言い募ること自体、たいして意味のないことだと思えるほどに、筋をしっかり押さえていました。裏を返せばたいへん説明的だったともいえるわけですが。

見せ方としては、演出や映像の凄さは相変わらずです。エンタテイメントとして他の作品と一線を画しています。再び新しいメルクマールを作ったのではないでしょうか。

ちょっと面白いと思ったのは、作中で描かれる大災厄が、主人公の父親の個人的な美しい思い出の詰まった世界を保つために、他の生きとし生けるもの全てを犠牲にして顧みない心から生まれたとしている点です。まるで、高齢化する世の中で幅を利かせる現実の高齢者層の写し鑑のようです。その分厚い存在に虐げられ、その我儘が、ものごとのあるべき姿を歪めていると感じているエヴァ世代には、このうえなくよく響いたのではないでしょうか。

本シリーズは、その旧世界の重みから逃げて引き籠る若者をずっと描いてきましたが、締めくくりの本作でそれを解呪し、一歩を踏み出す具体的なイメージを与えたかもしれません。

もちろん、たいていの作品はそういう面を持ってはいますが、このエヴァシリーズというものは、とりわけそういう色合いが強く出ていたと思います。

* * *

さて、これで一応、若者はバーチャルな世界から現実の世界に戻ってきました。王子様はお姫様と幸せに暮らしましたとさ、のパターン。でも 実はここからがたいへんです

本作の締めくくりに再び登場した象徴的な主題歌。とてもよいですが、それが示す愛や憧れは、永遠というわけでもないのですから。それらとどう折り合って、あるいはやり過ごしていくのかは、まだこれからの大人の物語になるのです。

生きていくってなかなかしんどいですね。面白いけど(笑)

蛇足ですが、本作が理想郷のように描いている、畑仕事「でも」して生きていく田舎生活は、大多数の人にとっては夢物語で、そんなに甘くないかもしれないとだけ、付け加えておきましょうか。

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