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2021.02.14

「すばらしき世界」

「すばらしき世界」
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日曜昼の最後の1席をかろうじて予約できて見に行った。役所広司の全開ぶりを久しぶりに見る。同じ時間帯で他の日本のアイドル映画が閑散としているのと比べて、なんという違い。

この種の映画は、以前は自分と関係ない世界を興味本位で垣間見るものと思っていた。けれどもこの人気ぶりは、こうした世界観が広く共感を呼ぶくらいに世の中は変わってきている、その証左かもしれない。

敷かれたレールから一旦外れると、まともな道を行くのは難しいとは、昔から聞き分けの無い冒険心に満ちた子供を手懐けるために、恫喝交じりで言われてきたことだけれど、それがいよいよ強く感じられるくらいに、世間はせちがらく、景気は悪化し、国力は衰退し続けているということだろうか。脱線転覆劇場の見本のような者にとっては、興味深いことではあります。でも本当は、それほど気にする必要もないと思うけどね。


前置きが長いのは、たぶん、本作について何か直球で言うのがためらわれるからだ。何を言っても薄味のことしか言えそうにない。いくら脱線の多い気儘な人生といっても、刑務所暮らし十何年の話の前では霞まざるを得ない。

だから、この話を見る切り口は別にある。渡る世間は鬼半分ということだ。
本作の主人公の困難な人生は、それを浮き彫りにする道具立てなのです。

そうしてみれば、なるほど頷けるところが随所にある。過度に感情移入せずに観察すれば、同情すべきところもあり、至らなさを指摘したくなるところもあり、というところだろう。わき役たちがそこを隙なく埋めてくれる。その上、泣かせるのも上手い。

同じ西川和美監督の「夢売るふたり」は、切なさで泣かせる点で右に出る映画はそうはないと思うけれど、この作品もまた。

すごいなと思ったのは、この締め方。主人公が紆余曲折を経てやっと志正しい道についたと思ったところで、体の方が力尽きるのは、まあよくある話なのだが、そこからカメラは視線を上げて、薄青い空を映し、タイトルの「すばらしき世界」の文字を出して終わる。こちらは、そこで初めて、最初は単なる皮肉とも見えたタイトルの、真の深みに気づき、はっとさせられる。

なんという手腕。素晴らしすぎる。

観て、しみじみと感慨にふけりましょう。

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