「私をくいとめて」
原作小説は2017年発売。作者は綿谷りさ。
変な感覚だけど、この作品を見てコロナの前がどうだったか、思い出した。何が違うかというと、なんだかんだ言いながら世の中はまだロマンに浸る余裕があったということだ。
今は下手をすると命に係わるので、どうしても他人との交流は控えめにならざるを得ない。嫌な世の中ですね。
自分はあまり気にしないといっても、他人は気にするので、どうしようもない。夏の盆休みなんか、スタッフたちに懇親会の開催を打診したら、年配の一人を除いて学生達は全員、コロナが怖いのでと断りを入れてきた。まあコロナは口実かもしれないのだが。orz
とまれ、そういうご時世だから、なんだかこの作品は遠い世界の話のようだ。なにもかも狂ってしまっているのが、こんなに意識されたのは初めて。その意味で、見てよかったです。
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お話の中身は、アラサー女子の生き方アラカルトみたいで、男の観客である私には退屈になりそうなところ、能年玲奈のおかげでなんとか持ちこたえたという感じ。どたばた女を演じるのはうまいと思う。作中では、美形にも拘わらずお笑いとズッコケのオーラを身に纏っていて、これがたとえばワンダー・ウーマンとかミス・マーベルとか真面目一辺倒のキャラを演じたらきっとぶち壊しになるだろうとか余計なことを想像しながら見ましたすみません。
具体的に言うとたとえば、最初の方でコロッケ屋の前から自転車で立ち去ろうとするときの斜め後ろから映した姿。漕ぎ始めの猫背とか足の開き具合とか肘の突っ張り方とか、完璧です。漫画でズッコケギャグとして描かれる瞬間そのまんま。天然かもしれないが演技だとしたら超一流でしょう。疑いありません。
その割にファッションが洗練され過ぎていて、築地という設定からは完全に浮いていました。もちろん意図的にやっているだろうけど、作品の本旨とはずれている気がします。
築地といえば、築地市場の跡地が更地になっていて、朝日新聞本社が丸見えになっているのは面白い風景でした。
ヒューマントラスト渋谷のロケ映像とかも、まさにそこのスクリーンで見ている側としては一気に親しみが湧いてよかったです。
ところで、本作では思わぬ発見がありました。それは片桐はいり。私はこの役者さんはあまり評価していなかったのだけど、本作のバリキャリウーマンはがっちり嵌ってましたね。意外でした。いままではあまり合わない役をやらされていただけかもしれません。
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本来ならマーベルとかの金のかかった出来合い超大作で盛り上がるはずの年末ですが、今年はコロナのお蔭で、ちょっと毛色の変わった作品で締めくくることになりました。来年はこの禍を克服してよい年になりますように。のんの女優としての未来にも陽が差すことを祈りつつ。。。