「ヒルビリー・エレジー」
泣かせます。
原作には「アメリカの繁栄から取り残された白人たち」という副題がついているそうで、映画にもそれはたっぷり描かれているけれど、そんな状況の中でもくじけない気概が、祖母から孫へと受け継がれてもいて、アメリカの繁栄の源を、思わず襟を正して見る思いです。
生存者バイアスが掛かった成功物語やべき論が幅を利かせる世の中ですが、少し深く観察すれば、海面下の氷山のような巨大な無念が蓄積していることに気づくでしょう。その叶えられなかった希望たちが、努力して自分の未来を掴もうとしている若者の重荷となっている様が、主人公の青年の苦悩として描かれます。
諦めてしまいそうになる気持ち。老いた親を故郷に残していくうしろめたさ。そうはできないという言い訳めいた気持ち。人生の第一歩をまさに踏み出そうとしている青年は、岐路に立たされています。どうすべきなのか。
彼の選択を良くも悪くも言うことは簡単ですが、そこに至るまでの、回想も含めた親子・家族の想いの数々が、この映画の深い味わいです。
中でも印象に残るのは、青年と彼の恋人が電話で交わす会話の中で、それぞれの祖父母が身一つで新天地を目指した家族の歴史に想いを馳せるくだりでしょうか。格差と分断に喘ぐ今のアメリカ人は、これをどういう気持ちで見たでしょう。
酷い状況の中では誰しも道を見失いがちですが、希望と不屈の精神だけは常に高く掲げていたい。そいう気持ちを新たにさせてくれる、素晴らしい作品でした。