「異端の鳥」
生の重み、実感を伴った動物的な人の生き方を、美しいモノクロ映像で言葉少なに綴る東欧映画。
公式サイトで受賞歴を見ると、最初が2012年で、それから間を置いて2019,2020年にも受賞している。息が長いというのか、それとも息を潜めていたとでも言うべきなのか。
原題の"THE PAINTED BIRD"が示す通り、人が集団を維持しようとするとき、余所者とマーキングされた者に対して、どれほど残忍になれるかを見ることになる。
旅を続ける少年の前に現れる、一見善人かと思えた人物が、大小の悪を発露していくのを、少年と共に見ることで、観客は自身の中の獣性に気づかされる。
被害者、当事者として翻弄されながらそれを見つめる少年の瞳は、物静かに、悪魔的な光を湛えて、時には報復を伴いながら逃避行を続けていく。
苦難の道のりの発端となった、少年の家族との別離は、最終のエピソードで贖われるのだが、自分を置き去りにした父を許すことができない少年の心情に我々は共感する。
そして、最後のシーン。父の腕に刻まれた番号を見て、少年は知るのだ。父も自分と同じ、疎外された者だったということを。
たったこの一瞥、一瞬で、少年は赦しを悟る。見事な締め方でした。
こういう本当に映画らしい素晴らしい作品を久しぶりに見られて嬉しいです。