「スパイの妻<劇場版>」
もとはNHKのドラマだったそうで。ちょっと時代掛かり過ぎのきらいはあるものの、ポイントはまあまあ押さえている。コスモポリタンという言葉は久しぶりに聞いた気もするけど、ちょっと浮いている感じだろうか。
お話は、社会が一方向に向かって暴走した戦前の空気の中で、理想と主張を貫こうとする貿易商の主とその妻の、信頼と絆、それさえも手段として使った主の鋼の決意、残された妻の達観を浮き立たせている。
自社の社員を贄として差し出すことで、夫の理想に追いつき並ぼうとした妻が、自分もまた贄にされたとわかったときの、「お見事でございます!」の叫びが、ひとつの山。浅知恵と言うのは簡単だが、そこに、保護され続けることを否定して自立を望んだが、経験不足は隠しようもなく挫折した女性の、悲痛な響きが聞こえる気もする。
そして、後日談の中で、彼女が旧知のエスタブリッシュメントに語った言葉が、この作品の白眉だろう。もちろん全ては、これを言わせるための筋書きであったわけだ。
戦前との類似が囁かれる今の世情に、この話は刺さるものがありました。
ロケがなかなかいいところを使っている。神戸の建築も文化財級のところを使っているらしいけれど、関東の人間としては積善館とか出てきて懐かしかった。主人公夫婦の家の玄関もどこかで見たことがある気がするのだが思い出せない・・
蒼井優。なぜあなたはいつまでたってもそれほど演技が下手で発声がだめなのか。「お見事でございます!」のシーンは、この映画最大の見せ場にして裏切られた妻の悲哀と男への畏敬とがないまぜになった味わい深い想いを観客に焼き付け粛然と涙を誘うべき場面なのに、あなたが昏倒したときのこのおれたちひょうきんぞくのオチみたいな喜劇感はなんですか。まわりの俳優たちが全員笑いを必死にこらえている気さえしましたよ。全部あなたのせいですよ(笑)。
まあすごく笑えたから許しますけど。