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August 2020

2020.08.31

「すべての終わり」

NETFLIX配信

これはまた大仰なタイトルと思って原題を見ると"How It Ends"。ちょっとニュアンスが違う気もします。

内容的には、原題の方がしっくりきます。現代のアメリカが抱える病理を、ロードムービーの中にちりばめる形で描いています。

脅威に直面してバランスが崩れ、簡単に野生というか無法世界に戻ってしまうという捉え方をしています。

街中のギャングあり。交通量の少ない道での強盗あり。原住民居留地の無気力あり。普通の人が略奪に走る姿あり。自警団的な閉鎖性あり。多少ましなのが軍隊というのは、規律に従う訓練を受けているので当然かもしれません。その軍すら、最近は無力かもしれないという不安の描写もあり。最後におそらく男女を巡る諍いの末の殺人あり。

それで、脅威の実態はよくわからず、不安なままで作品は終わってしまいます。なんだか不安だらけで、これが現代アメリカ人のひとつの心象なのだろうか、という感想しか残りません。

そうそう、ただ、そんな不安の中でも、女は孕むし男はそれを守るという基本はしっかりしています。

まあ、そんな風な作品。2018年と、少し以前の配信ですが、既にこういう兆候があちこちに出ているのでしょうか。映画館に掛けるのは無理そうだけれど、配信ならこういうのもありかもしれません。

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「シチリアーノ 裏切りの美学」

やくざというのは、出だしは地域の用心棒的な役割と、特殊なマイノリティの受け皿的な役割とで、一定の意味も見いだせるのかもしれないけれど、国家による司法と行政が整備されていく中で初期の役割を失い、生き残りの道を模索していく間に、欲得づくのモラル喪失集団に変容するのだろうか。

この映画は、その変容に嫌気が差した男の密告に基づいた、マフィア撲滅の筋を追っている。司法に協力したこの元マフィアの大物に映画は好意的だが、たぶん現実はどっちもどっちなのかもしれない。抗争の調停に失敗した挙句の密告(悔悛と呼ぶらしい)なのだから。

作品の後半は多くの時間を法廷の描写に充てている。檻の中から裁判の進行を見つめるマフィア達の厚顔無恥・傍若無人ぶりが目立つ中で、ひとつ、彼らが怯む部分がある。

悔悛者のこの元大物マフィアが、調書には書かなかった件を暴露したときだ。彼らの一人が、同じ身内を殺害したこと、それがただ幹部会の決定だからというだけの理由で行われたことを聞かされた彼らは、それまでの大袈裟な騒ぎ振りと打って変わって、一様に押し黙ってしまう。
彼らにとっても、自分達の堕落はやはり意識されていたのだろう。
この一幕を境に、裁判の趨勢は原告有利になっていく流れで映画は作られている。

判決と量刑が出て、この話は一応終わるのだが、関係者のその後についても少し描写がある。調書を作成した判事は、爆死。もう一人の悔悛者は復讐を胸にイタリアへの帰国を画策。
主人公の元大物は、米国内を転々としながら、とうとうマフィアの手から逃げおおせ、畳の上で死を迎える。


どんな社会にでも暗部はあるものだろうけれど、それにしてもイタリア、というかシチリアのこれは根深いものがあるようだ。その地域の経済に食い込んでいるから、なかなか根絶というわけにもいかない。

取り立てて感情が揺さぶられるようなものでもないけれど、見てよかったと思える作品でした。

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2020.08.30

「イップ・マン 完結」

とうとう完結です。相変わらずその物静かに燃える炎のかっこよさに痺れます。ドニー・イェンのイップ・マンはいつ見てもよいですな。

中国でこれが公開されたのが2019年12月。折しも米中対立がエスカレートしていく直前の、なんともタイムリーなストーリー展開。
白人による理不尽な抑圧に我らが葉問が敢然と立ち向かいます。

彼の依って立つところは、不公正を許すことはできないという武道家の精神。そこは劇中の台詞のとおりです。

願わくは中国の人々が、この映画が示す公正さを自分達の在り方に照らして恥じないかどうかに思い至らんことを。

といっても、ここ数世紀の歴史を顧みれば、彼らの憤りは理解できるのが悩ましいところ。世の中そう単純でもない。我々も傍観者ではなかったわけですし。

本作で敵役になっている米海兵隊でも、卑劣な連中は下っ端の一部で、上の方も、大多数の兵隊たちも、合理的で公正な理解を示しているのが救いといえばそうです。

現実もこんな風にうまく納まるといいのですが、映画の中の葉問師匠が結局、故郷へ帰って、息子に自分の得たものを教えるあたりに、今後の中国の行く道が暗示されています。どうなるのでしょうかね。

ところで、実際の葉問さんは、Wikipediaを見るとたいへんな苦労人のようで、かつお茶目な人だったようです。映画で描かれている像とは少し違うらしいことは、記憶しておきたい。

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「ディック・ロングはなぜ死んだのか」

ひと月くらい前に見てはいたのだけど、あまりの脱力感に感想も書かずに放置していました。

でも落ち着いて考えてみると、そう、「人間って・・計り知れないですね」という太っちょ婦警の言葉が結構重みを持って響いてきます。
いやその、計り知れないといっても、もうどうしようもない、の言いかえでしかないのですけどね。

ただ思うのです。

そういうどうしようもない非常識なことを時にしでかすことで、人間の文明は発展の切っ掛けを掴んできただろうな、ということをね。たとえその当事者の個体が滅びても、その衝撃が周りに伝播して、毒性を弱めつつ何らかの新たな刺激を我々の社会に与えることによってね。

そこにその時代その地域の良識を当てはめて考えることから、距離を置いてみるのです。

そういう意味で、ひと月たってみるとそれなりに含蓄があるような気がしてきました。


・・・んなわけぁないだろう(笑)

まあ少なくとも、「なんで俺たちあんなことしちゃったんだろう。」という絶望というか慟哭のようなものを、役者がよく表情に出していたのは、さすがプロだなとは思いました。


あ。これの監督、「スイス・アーミー・マン」のあの人なのか。。
いやあ映画って計り知れないですね。

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2020.08.24

「月影の下で」

NETFLIX配信

この系統のSF的小道具は、実に簡単に感動をつくることができる。
だから、扱いは慎重に、易きに流れないようにしなければならない。

本作はその点、比較的上手く扱えている。主人公と謎の女の関係は、最後の最後までわからないように巧妙に処理されている。
それだけに、それがわかったとき、揺さぶられる感情もひとしおだ。

この男の壮年期の人生は一体何だったのか。彼の少し先を行っていた義理の兄と見比べて、その思いは一層深まる。

にも関わらず、全てがわかったときの、この清々しさは一体何だろう。この男にはこの生き方しかなかったと思えるこの納得感は。この生き方があったからこそ、物語は続くのだと思える、唯一絶対感は。

それが運命というものなのかもしれない。
そういう感じを残す本作は、やはり佳作には違いない。

 

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2020.08.23

「海の上のピアニスト 4Kデジタル修復版」

自然な色調で蘇った名作。言うまでもなく傑作。
ちりばめられたエピソードはそれぞれ表情豊かな曲で彩られて、この男の恬淡とした振る舞いとよく調和している。

宣伝文句では船で出会った少女に恋したエピソードがクローズアップされているが、もちろんそれがテーマでもない。

なぜなら、彼は船を降りる決心はしたものの、結局引き返して一生を船の上で過ごしたのだから。

なぜか?
それが映画の最後に語られる。この作品の眼目になる。

限りあるからこそ無限。

作中で何度か、彼の親友が現世的な成功に彼を誘おうとするたびに感じた違和感は、これが理由だった。

そんな風に茫漠とした成功という名の何かよりも、限られた船の上を行き交う限られた人々と楽曲を通じて共有する時間の方が、彼にとってはずっと大切だったのだ。

ジュゼッペ・トルナトーレの作品づくりそのもののような主人公の生き様でした。

映画ってほんといいですね。

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2020.08.15

「ブライト」

NETFLIXオリジナル

オークやエルフといった魔法の種族と、現代のロサンジェルスとが同居している不思議な設定の世界で繰り広げられる警官もの。バディ映画。

同居しているとはいえ、魔法自体は特殊な条件が揃ったときしか発動しない。だからオークと人間とエルフがいるという状況が、現代アメリカの人種や社会階層の混在を暗喩している作品にもなっている。

そこに稀に魔法の要素が投げ込まれるのだが、このバランスやタイミングが上手い。節目節目でちらりと見せてお話を駆動していくので、固唾をのんでいるうちに最後まで引っ張られる。

お話の向こうにダーク・ロードという悪の象徴が見え隠れするのだが、それは最後まで登場せず、そのことが却ってこのお話を足が地に着いたものにしていて好感が持てる。

NETFLIXにも、出来のいいのといまひとつのとあるけれど、これは出来のいい部類に入るだろう。

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2020.08.14

「プロジェクト・パワー」

NETFLIXオリジナル

んまあ、5分間だけ超人になれる薬を巡るひと騒動てな感じで。
アフリカ系が主なターゲットの作品。白人は基本的に悪役の中で、ジョセフ・ゴードン=レヴィットははじめ敵で途中から味方にという展開。

薬による変身のバラエティでアクションを見せながら、アメリカにおけるアフリカ系の生き方を教える筋書きにもなっています。

全体にライトな仕上がりだけれど、これは映画館に掛けても十分いけそう。悪くない出来でした。

 

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