「デッド・ドント・ダイ」
ジャームッシュ、遊んでるでしょ(笑)。でもまあ、面白かったですけどね。
コロナ明けで、少し諸行無常感のあるような、それでいて閉塞した現状を変えられそうな希望を微かに感じているような、そんな心持ちにしっくりきました。
とはいうものの途中まで、いったいこれはどういう落としどころなんだと頭の中は疑問符でいっぱいです。だいたい、アダムドライバー演じる若い方の警官が、死体を見た他の人たちが口を揃えて野生動物の仕業と言っているのに、ひとりきっぱりゾンビだと断定してるの、おかしいよなあと思っていたら、とんでもない種明かしが来ますし。観客は完全におちょくられてますな(笑)。
おちょくりといえばもっとすごいのが、ティルダ・スウィントン演じるゼルダ・ウィンストン--この時点でもう、やってきてるな監督て感じですが--の退場の仕方。も椅子から転げ落ちます。おい、どこ行っちゃうんだよ君は(笑)。
そもそも全体を通して、日常と微妙にずれていて、何とも座りの悪い変な感触が、なにかおかしいぞこれは、と感じさせるに十分です。
全部、意図的だったんですね。最後のナレーションでそれがわかりました。
最初から最後までところどころで貌を見せていた世捨て人の男が、全部解説してくれます。なーんだそういうことを言いたかったのかと。ありきたりだけど、まあそれはそれでありなんじゃないですか。
ということでスタッフロールが流れて、やれやれ終わったと最後に映画のタイトル「THE DEAD DON'T DIE」がもう一度ひょっこり映し出されて(たぶんこれも意図的にやってる)がーんと頭を殴られた気分になります。
作り手が本当に伝えようとしたこと。それは、「いま君たちに説明した、救いようのないこれは、ずっと続くんだよ。DON'T DIE なんだよ。」ということ。それに嫌でも気づかされてしまうのです。
何か東洋的な精神主義的価値観がこの地獄のような状況を変えてくれる? そんなことあるわけないでしょ、とゼルダ・ウィンストンを使って教えているわけです。
世捨て人の男のような境地が救いかも? そんなわけないでしょ、彼もまたDEADと同じなんだよと、彼が最後に農場から盗んだであろうチキンを頬ばらせることで教えているわけです。
徹底して斜に構えていますね。子供たちが森へ逃げたのだけが、一応の救いでしょうか。
いやー、人が悪いですねジム・ジャームッシュ。こういう達観は好きですよ(笑)。
【追記】
実を言うと、"Kill the head." がもうひとつのキーなんだけど、今のご時世を想うとちと剣呑なので、あんまり言いません(笑)