「ANNA/アナ」
また性懲りもなく女スパイものか、と思ったらこれが意外や意外、面白い。
まずスピード感がある。特に導入部分のところの格闘シーンはがんばってる。ヒーロー効果はどの映画も同じだから仕方がないけど、相手の人数が多ければそれだけ使える武器もたくさん落ちてるという割り切りがよいです。ヒミツヘイキみたいな厨二アイテムはお呼びでない。
その後もくだらない台詞を言わずにどんどん殺しまくるのが快適だ。男のスパイものは、殺すときにくだらない述懐が長すぎてストレスが溜まるけど、本作の女スパイは、考えるべきこと言うべきことは準備段階で吐き出して、いざ実行時は躊躇なく小気味よく殺る。無意味に引っ張らない。そういうところでリアリティを感じさせて気持ちがいいです。
そして、組織による束縛と個人の自由との葛藤を解決するスタンスが、これまた気持ちがいい。どろどろしたものはなし。心を決めたら黙って周到に準備。実行は最小限の動きで扇の要だけを狙い撃ち。その後のミスから引き起こされる大バトルでエンタメ要素もばっちり。
構成もいい。時系列で見せれば間延びするところだが、はじめに表層の動きと結果を見せたあと、少し時間を巻き戻して裏を見せ種明かし。このシークエンスをいくつも連ねていって、驚くべき作戦の全貌を次第に明らかにしていく。そこに二重三重にそれぞれの思惑を織り込んで見せていく。お見事です。
ほかにもお楽しみ要素満載。そもそも女スパイの表の職業がモデルだから、華やかかつセクシー。眼福というやつです。ウィットも効いてる。米ソ拮抗の大きな構図の中に、フランスやドイツへの皮肉が登場人物の設定として組み込まれていて、思わずニヤリとさせられる。加えて米国とソ連についても組織の駄目な点を風刺していてフェアな感じです。
完成度がすごく高くて、垢ぬけていて、スパイ映画なのに爽快感があって、エンタメとして最高の部類に入ります。リュック・ベッソン、ふっきれた感じがしました。