「ワールドエンド」
これは沼。浅そうに見せてその実、人を欺く深い深い沼。
初めのうちは軽めでキャッチーな展開で進みますが、次第に角度を付けて深くなり、見る者はずぶずぶと嵌められます。底の見えない不安感に襲われながら、予想外の二段三段の展開に釘付けになり、さらに深くその先へ沈められていくことになります。
ロシアが、文学ならともかく映画でこんな作品を作る、作れるなんて。予想外でした。
確かに、ハリウッドとは全く違うテイストに惹きつけられるところはあります。そもそも我々はロシアの人たちの日常なんてほぼ全く知らないのだから、それが表れている部分だけでも興味深い。どの程度までフィクションなのかも含めてですが。
加えて、見慣れた米軍とは違うロシア軍兵士たちの装備にちょっとかっこよさを感じたりもします。事態の深刻さを表現するのに、最新鋭の戦闘機が行方不明、ではなく、最新鋭の戦車旅団70両が消息を絶つ、なんていう台詞にぞくぞくするわけです。鷹より熊、のロシアンテイスト炸裂。
さらにロシア感覚のタフガイやイケメンや美女のタイプは、などとチェックしたりもできるわけです。あるいは、装甲車が群衆を突破していくシーンなども、欧米の映画ならたぶんボツになりそうなド迫力映像です。おそロシア(笑)
そういう楽しみが大きいことは否定しません。しかし、それだけなら西洋から見たエキゾチズムで片付けられてしまうところですが、この作品はもっと深いテーマをいくつも含んでいます。人間の本質とか獣性とか神性とかについて。そういうところを、ハリウッドのお決まりのパターンとは違うアプローチで見せてくれます。
そして最後に、大きな問いを投げかけたまま、映画は終わってしまいます。マーベル映画などにありがちな、続編へのフック程度の意味しかない安っぽい終わり方とは違います。
あの後、一体どういう展開があり得るのでしょうか。深遠な問いを受けて、観た後も考えるネタに尽きない良作になっています。最初のB級感を保ったまま、それをやってのけているのが凄い。
ロシア映画、侮れません。