「FYRE: 夢に終わった史上最高のパーティー」
幻に終わった音楽フェスティバルのドキュメンタリー。美しい南の島を舞台に繰り広げられた誇大妄想の破綻の道行き。
この首謀者を詐欺師とする見方はもちろんあるし、実際に詐欺罪で有罪判決を受けている。けれど本当に詐欺師なら、金がある程度入ったところで姿をくらますだろう。この人物は最後までそこにいて、けれども責任はとらない(とりようがない)のだから、どちらかというと人格破綻者なのだろうか。口先で誰かを丸め込んで金を調達することだけは上手かったけれど、現実のロジスティクスがまるでわかっていなかった。
ただ、この作品は、一人の人格破綻者に焦点を当てるよりも、むしろネットが生み出したインフルエンサーという人々とそのフォロワー達の、空疎な有様の方を描いているようにも見える。実質を伴わない単なるイメージが価値を生み出すかのように錯覚する新しい空間が生み出されて、そこに身を投じていく人々がいる。
もちろん以前から、ファッション業界とかセレブとかいう言葉の周囲はそういうものだったろう。いわゆる夢売り商売だ。あるいは、芸術一般も実はその類であるのかもしれない。いずれにせよ、一部のごく限られた人々が独占するものだった。
けれどもインスタグラムがそれを大衆の手元まで引き寄せた。作中にも、あの島はまさにインスタグラムだったと述懐する声が批判的に挿入されている。
いまこのとき、世界中が妄想も詐欺も一切通用しない疫病の災いに直面しているただ中で、夢のように美しい記録映画の景色を見ていると、なんと儚く見えてしまうことだろう。
ほんの数か月の間に、こういう空間は封印されて、当分の間は復活しそうにない。そう思うと、この薄っぺらさがなんだか愛おしいような気分になってくる。
見るタイミングのせいだけれど、妙な気分になりました。