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2020.02.11

「わたしは光をにぎっている」

昨年の見逃しなのですが、ちょっと気になっていましたので。
まあ、わざわざ追いかけてみるほどでもなかったかなというか。
ストーリーラインというんでしょうか、そういうものをあまり持たずに、なんとなく各シーンを置いて行った、という感じです。ちょっと初めのうちはそれが苦痛というか、忍耐が必要です。最近せっかちなのです。

でも1点、とてもいいところがありました。それは、主人公が透明なお湯を掬っているシーン。

その日、銭湯の主人は外出で営業は休みのはずだったのを、彼女は志願して、初めてひとりで営業準備をして、来客を待つまでの静かなシーンなのです。
自分が掃除をし、燃料の材木を切ってくべ、沸かした湯を滔々と満たした湯舟に、綺麗な手を差し入れて、その上で踊る午後の光を掬い取るかのように握りしめるのでした。初めて人にサービスするために汗水たらして準備したその成果を、人に供する前にそっと確かめる。子供だった彼女がひとつ成長したのをはっきり感じ取れる、なかなかいい場面でした。

他は概ね付け足しです。なるほど亀有という土地柄の断片をいろいろ切り取ってみたり、再開発で壊されていく古い町を懐かしんだりと、ありがちな設定を置いてはいるのですが、まあよく見るやつです。ただ、打算だけではない人々のつながりを背景に置いたことで、先程のシーンの説得力がぐんと増しているのは確かでしょう。そういう意味では他のシーンはもちろん無駄ではありません。

実際、そうしたつながりのないまま覚えた仕事というものに、金銭以外に何程の価値があるのか、疑問を抱かせるに十分です。そういう意味では、やはり良作といっていいのかもしれません。

エピローグで、再開発のお蔭で小金を掴み、結構余裕のある暮らしにはなったものの、なんだか満たされない銭湯の元主人が、昔のご近所さんが寄り集まっているのを見つけて生気を取り戻すのも象徴的。これもありがちではあるのだけど。

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