「ラストレター」
故郷、青春、恋愛などを描く作品は数多くありますが、本作はそのなかでも際立った傑作です。忘れてしまったもの、忘れ得ないものを、手紙という懐かしい方法を通じて、徐々に、しみじみと、鮮明に、蘇らせてくれます。
はじめは少し滑稽な行き違いから、手紙を通じて、現在と過去が少しづつ交差していくのでした。光の中にわずかな影が差して、なかなかいい味わいだなと思って見ていると、過去の暗い影が不意に大きく蘇ります。
この作品が、普通の恋愛映画、青春映画と違っているところは、手紙に綴られる明るく温かい想いに対置される、あるものの不可思議な存在感です。主人公の青春の想い人を、暗く悲惨な道へと導いた男の存在が、この作品にえもいわれぬ味わいと奥行きを与えています。
主人公はこの男の悪を糾しに行って、逆に己の不甲斐なさを問われ、この男の虚無のありように敗北します。まことに不思議な味わいです。作者はこの男の存在を、悪というよりは混沌のように描いているようです。そして短く色濃く描いたあとは、やり過ぎずに、むしろそれに囚われてしまった彼女の運命を、それを振り返る人々の哀しみを、描く方に軸足を移していきます。
主人公は惨めな敗北に意気消沈し、思い出の詰まった廃校を彷徨うのですが、そこで、あの濃密な混沌をも打ち消すような透明な存在に出会い、想い続けた人が、同じように自分を想ってくれていたことを知らされて、救われます。
この辺りの展開のダイナミズム、過去と現在の交錯、光と影の交わりが、並みの恋愛映画にはない、本作の際立って優れた点です。これを、とってつけたような事件事故など一切使わず、ただ日常の場面と出会いと会話のみで、これ以上ないほど印象的に描き出しているのです。何という巧みな話の運びでしょう。
そして、この交わりの後に、人々は何事もなかったように元の形に戻ってきますが、それでいてそれぞれの心の裡は、始まりとは全く違った幸せな形に変わっています。成長と言葉で言うのは簡単ですが、もっと味わいのあるものです。
こんな繊細で大胆で見事な語り口は、そうはありません。
結びに、彼女が残した卒業の辞が、彼女が残した一人娘の声で、時を越えて読み上げ重ね合わされます。万感の想いを込めた、ラストレター。美しく泣けますね。
本当にいい映画です。