「Game of thrones」
いい物語でしたねえ・・見終わった直後から早くもGoTロスです(笑)。
三が日を利用して、完結して間がないこのドラマを。年末年始に海外ドラマを一気見するのは、"Walking Dead" 以来ですが、満足しました。TVドラマは普段ほとんど見ないため、このジャンルがどういう作法で作られるのか知らずに書いてしまうので、的外れな感想かもしれないけれど簡単に。
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全体を通して観てみると、不評だという結び方は私には少しの違和感もなく、ど真ん中の正統だと思えました。世間が求めそうな安っぽいハッピーエンドではなかったけれど。
デナーリスの問題意識は初めから、既存の権力構造をぶっ壊す(そして新しい構造をつくる)ところにあったので、その立場に立てば、旧い王都はそれを支える住民を含めて根こそぎにするのが正しい。漸進的な考えの閣僚達に度々譲歩してきたけれど、本丸は譲らないという王者の判断で実力行使に踏み切ったということだろうと思います。私怨や憎悪が理由とも受け取れる描かれ方ですが、流れで見てくるとそうではない。私怨の表出はむしろ軍団長の役割です。「獅子は羊の評判など意に介さん」はタイウィン・ラニスターの名言ですが、デナーリスもまた、ということでしょう。
日本の物語でいえばさしづめ、織田信長といったところでしょうか。仮に本能寺の変が起きず、最終的に京都を火の海にして天皇と公家を皆殺しにした信長が、灰燼に帰した御所の跡で光秀に刺されるのを想像してみると、こういう感じ(笑)。
旧い権力構造の上位にいた者たちが全員排除された結果、エピローグでの新評議会メンバーが、かつての底辺層のうち豊富な実務経験(笑)を積んだ者だけで構成されている事実は、彼らがかつて望んだ穏やかな変化では、存命中に決してその地位を得ることはなかっただろうことを考えると、まことに皮肉です。そのことはティリオン自身が劇中で言っているとおりで、本来この種の改革は何世代もかかるはず。デナーリスは自分と同等の能力の者が何世代も続いてくれるとは思っていないので、性急に事を進めるのは致し方なかったのでしょう。
結果、彼女は道半ばで狂王の汚名と引き換えに新しい世の中の土壌を残したわけです。自分自身も含めた旧支配者が全て取り除かれた、真に自由な環境を。それを生かせるかどうかは、残された者たちの課題ですが、評議会の議論を聞くとかなり後退しそうです。3歩進んで2歩下がる感じでしょうか。差し引きの1歩に当たるのは奴隷制の廃止。でもこれは、デナーリスにすれば本望だろうと思います。彼女の苦難の道のりを考えれば、絶対に譲れないのはその点でしょうから。
物語の大筋については、まだまだ書きたいことがある気がしていますが、思い出したらまた追加するとします。
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広範な舞台に散らばったそれぞれの物語は、英雄譚とか悲恋とか二人旅とか、よくある類型が盛りだくさんです。この辺りは、2時間一本勝負の映画とはまるで違って、TVドラマならでは。いまやそれもオンラインドラマと呼ぶべき時代に変わりつつあるようですが。
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それにしても裸の多さよ。毎週定時の連続ドラマで視聴率維持の方策なのでしょうけれど、アメリカの普通のご家庭では、これ見るのに抵抗ないのでしょうか。よくわかりません。とりあえず俳優の皆さんいい脱ぎっぷりでした。時代考証的にはどうなんだろうかなあ。厚い上っ張りを脱ぐとその下は薄物1枚で下着なし、みたいなのはどうも違うような気がしますが、そもそも架空の世界のお話だからいいのか(笑)。
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印象に残った登場人物は、何といってもティリオン。演じているのはピーター・ディンクレイジさん。彼は物語のナレーター兼進行係のような役回りも務めています。本作は基本的に科白劇、というか会話劇ですが、その中核を成す人物がこの人。まことに雄弁でした。単に口数が多いだけでなく、仕草、表情、視線、いずれも雄弁に物語を形成します。その彼が最終話で、誰を王に選ぶか意見を求められたとき、噛みしめるようにこんなことを言います。(言い回しは少し違うかもしれませんが)
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I had nothing to do but think in past weeks.
About our bloody history.
That mistakes we made.
What unites people?
Armies?
Gold?
Flags?
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Stories.
There is nothing no well powerful than a good story.
Nothing can stop it.
No enemy can defeat this.
Who wears a better story
Is Brandon 'broken'.
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痺れます。長い長い物語を、この短いスピーチの中に見事にまとめています。ああ、見続けてよかったなと思わせます。こういうのを、かっこいいと言うのだと思います。
その彼が、続く新評議会の場面で披露された劇中本 "A Song of Ice and Fire" の中に、自分に関する記述が無いと言われて戸惑うところでは思わずニヤリとさせられます。ウィットと言いますか。あと味のいい終わらせ方です。
次点はアリア(アイヤ)・スターク。栄達に無関心で、いろいろ悩みながらも我が道を行くコンセプトが揺るがないのがいいです。このドラマはスターク家の子供たちの成長物語でもありますが、サンサの成長が、権力の泥仕合の中で陰鬱に進行し、それを糧としてある種の冷酷さを育むのに対して、アリアの成長は、町場の街道を旅する中で進みます。死の影を纏っているはずなのに、それに決して毒されない生の息吹が常にあります。
それこそが、彼女が死者たちとの対決の場面で決定的な役割を果たす理由にも思えます。物語の帰趨を決する人という意味では、デナーリスよりも、ある意味不可欠な存在。ディテールもとてもよくて、ブライエニーとの手合わせでの動きっぷりなど、かっこよいですね。演じているのはメイジー・ウィリアムズさん。
サーセイ・バラシオンは、複雑な人物です。この人は生粋の悪役には違いないのですが、子供に対する愛情は純粋です。彼女が成す悪はその愛情が起源になっています。過酷な闘争が避けられない環境の中で子への愛を貫く彼女なりの方法論が、悪を生み出すのかもしれません。近親相姦の子でなければ、もっと良い方法があったはずなので同情の余地は少ないとはいえ、自分ではどうにもならないのが愛というものなのでしょう。
そのほかにも、イグリットの悲恋とか、泣かせますね。ど定番なのに泣いてしまいます。「ぶっ殺してやる」を口癖のように言っていたのが不器用な愛情表現だなんて、もう最後に泣いてくださいと言わんばかり。ちなみにこのお二人、ローズ・レスリーさんとキット・ハリントンさんはいまではご夫婦だとか。これ以上何を言えと(笑)。
モーモント公の愛と忠誠もよい味わいです。シオンの不甲斐なさと償いとかもよい。ダメっぷりが徹底しています。ジョフリー王やラムジーの残虐ぶりとか凄まじいですね。特にラムジーは戦闘でも統治でも際立って有能なので、もし彼が勝っていたらと思うと背筋が寒くなります。それからタイウィンの深慮遠謀果断とか、ハイ・スパローの危険性とか、オベリン、ダーリオ、ブロン達の伊達男ぶりとか、ユーロンの無頼とか、ベイリッシュの陰謀家ぶり、ドロゴンの強大さ、見どころが数えきれないほどあって、キャラがあちこちで立ちまくっています。
作品の長さが違うので比較はできませんが、これだけの充実ぶりは単発の映画では不可能でしょう。
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長くて、様々な要素が満載で、締めるところはぎゅっと締まっていて退屈させない、子役たちの成長が楽しみな、とてもよい物語でした。