「HUMAN LOST 人間失格」
人の寿命が延びたといっても、依然、死ぬことには変わりない。
が、病気や怪我による死は予防と治療によって避けることができる。
そういった設定の元で予防や治療の技術が極限まで精緻になった管理社会のお話。
なので人はだいたい、生きているというより生かされている感が強くなる。
命の危険は無いわけで、気にしなければ結構な話なのだろうけれど、気にする人はいて、死ねないなんておかしい人間じゃない、となる。そうなるとなにか抑圧されていたものが暴発するのが、この種の話のお約束。今回も人が化け物に変化(へんげ)しては、治安組織に人知れず退治されます。
まあ、その類のよくある近未来SF。ただ、これまでと違うのは、見ている我々の現実の方。どうなっていくのでしょうね。興味深いです。
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映画では、管理された人間として生きていけるか、それとも暴走して化け物になるかのせめぎ合いがテーマになっている。それを文明曲線?というグラフに表して、関係者が一喜一憂する中で、主人公が第三の存在として生まれ変わりバランスを左右する。なんだおまえ、人間失格とは程遠いヒーローじゃんか(笑
そう、実は主人公は失格なんかしていません。では誰がそうなのか。
我々人間全員です。全人間失格。
というのが、本作のトリッキーな設定です。
もう少し正確に言うと、全人間がこの仕組みに適応できず人間失格だ、世直ししてやる。という革新の立場と、いやいや未来に希望をもってみんなで人間合格しましょうよ。そのためには多少の犠牲や優先付けはしかたがありませんよ、私の内臓だってお年寄りの延命に役立つならあげちゃいますよ、という保守の立場がぶつかり合います(笑)。前者が堀木正雄であり、後者が柊美子です。両者が無党派層の主人公大庭葉藏を奪い合うわけです。いつものパターンですね。
ちょっとどうかなと思ったのは、このシンプルな構図に、高齢化した少数エリート対搾取される一般大衆のような図式を持ち込んでいること。高齢化の問題意識をを盛り込むなら、高齢者が人口ピラミッドの一番大きな塊を形成しつつある事実を無視してはいけません。けれども、本作では、高齢者を一部の特権階級のように描いてしまってステレオタイプです。
まあ。それで、どうなのというと、どうともありません。
煮え切らない終わり方なのです。
ただ、希望の担い手が着実に増えているようで、そこは柊美子が正しいのかもしれないと気を持たせて、映画は終わってしまいます。保守の勝利。かわいいは正義。
絵はなかなか迫力あってすごいです。4脚の犬型ロボットが警察に配備され活躍しているのも面白い。まあ、楽しむとしたらそういった辺りでしょうか。