「台湾、街かどの人形劇」
冒頭、皺の多い老人の右手だけがしばらく映っている。
一目で、普通の手でないことはわかる。
天地を貫く人差し指は、太く、微動だにしない。
そのほかの指は柔らかくわずかに動いている。
これが、台湾の人形劇「布袋戯」の30センチほどの人形に命を与える手の動きだ。
これだけで、見に行ってよかったと思える。息をのみます。
映画は、この手の主にして人間国宝・陳錫煌の来し方を描いている。
ドキュメンタリーとしては、まあ普通の出来栄えだ。入り婿だった父、李天禄~こちらも人間国宝~との確執、家と姓にまつわる宿命、廃れる一方の民間伝統芸能の悲哀、伝承者選びの苦悩などが取り上げられていて、実際にそれは陳錫煌の人生を大きく揺さぶってきたのだろう。
けれども、冒頭の圧倒的な存在感を放つ手に比べれば、なにほどのものでもない。映画の普通さは、この手を作り上げてきた人が己の運命に抗い得てきたことの、むしろ証だとも思える。
映画の終わりに、再びこの手が登場する。そして実際に、人形劇を一幕演じて見せてくれる。
なんのことはない、平凡なストーリーの田舎劇だが、その人形の生き生きした様子はどうだ。街々を回りながら上演し、子供から大人まで娯楽を提供しながら、ストーリーに含まれた人の道を知らないうちに説いて回っている。
このまま廃れてしまうのは惜しいもの、日本ではもう消えてしまったものを懐かしく見る思いがした。
いやいや、消えてないか。日本の人形劇もがんばれ。
上映後、人形劇団ひとみ座(あの「ひょっこりひょうたん島」の!)の方のトークショーもあってお得でした。手の動きに加えて体や足の動きなどをシンクロさせることで、生きているような動きを生み出していることが、実演と解説付きで見せてもらえました。
んー人形劇・・・マイナーだけれど生き延びていってほしいです。
↓これ、NHKの人形劇番組ヒストリーね。
https://www2.nhk.or.jp/archives/search/special/detail/?d=puppet-anime000