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2019.10.25

「ジェミニマン」

間違いなく一級品。アクションが凄いだけでなく、その背景の人間ドラマも今を掬い取っています。

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何といってもまずアクション。スピード、切り返しの速さ巧みさ、武器の自在な活用、緩急の付け方、それだけでも大満足です。

逃避行に同行する女性との連携も自然で力強い。取ってつけた感がなくていいです。最初に彼女単独の力量を見せているのも効果的。

アクション映画は、金をかけたアクションをたっぷり見せたい意識が強すぎて冗漫になるところがあり、スピードやテンポを犠牲にして大見得を切るのが多いです。MIxとかね(^^;。そのため、現実味が薄くなりがち。

が、本作は違います。動きのキレがよい。大味なカーアクションを使わない。軽快なオフロードバイクを限界まで、しかも武器として使い切っている。削れるところを極力削ったことから生まれる、迫力、臨場感、小気味よさ。芸術といってもおかしくない。なかなか味わえない感覚を体験させてくれます。

クライマックスで破壊力の大きい火器の臨場感もたっぷり。ま、あの火線に当たらない主人公というのもちょっとなんですが、そこは軽くスルーしときましょう。

さて、それだけなら凄いアクション映画がまた一本ということで終わるのですが、本作は内容もいい。以下は少し穿った見方になります。ネタバレ注意。

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いまどきの多くの米国人は、遠い戦地へ出かけて行って戦争することに疲れていて、続けることに疑問を感じ始めています。主人公たちのチームが何度も口にする「戦争のない世のために」という合言葉は、まことに象徴的です。

とはいえおいそれと止めさせてもらえない。それならいっそ危険な戦闘はクローンにやらせては。そういう筋書きには、うかとすると説得力があります。

現実には、クローンではないものの、ドローンの利用がオバマ時代に拡大したそうで、米国人の被害がないならいいかと思ってしまいがちです。本作の黒幕が恐るべき現実感を備えているのは、そういう実世界の背景があるからです。が、もちろんいいわけはない。それがこの作品の一貫した主張です。

本作ではその点を、オリジナルとクローンの和解の後の締めの一波乱に、隠し玉としてぶつけてきます。ドローンを是とするなら、これはどうなのか。見ている方は、いやでも現実との符号を感じ取ってしまいます。その兵器がヘルメットを脱いだ瞬間の驚きが、話に切なさと深みを加えます。

大義が怪しい戦争を、味方の人的被害がないのをよいことに、心の痛み、肉体の痛みが無い殺戮機械を使って続けてよいわけがない、という考えが鮮明に浮き出てきます。

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そういう内容なので、本作の主役をウィル・スミスが務めたのはとてもよかったと思います。
クローンの方はCGだそうで、不気味の谷を感じる部分は少しあったものの、全体的には合格点でした。

 

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