「シネマ歌舞伎 幽玄」
この種の抽象度の高い作品は、舞台に没入できる環境が必須。なので、映画館で見るのにはあまり向いていなかったかもしれない。むしろ、この後上映されるスーパー歌舞伎のようなものの方が向いていそう。
また、そもそもが舞台向けに演出されているので、カメラの活かし方が難しそう。
例えば、天の羽衣で、漁師が退いて舞台中央に空白ができ、さあこれから何が始まるのか、という不安と期待が高まる場面。カメラはその空白の緊張を写さずに、舞台中央に進んでくる天女をずっと映してしまう。編集する側とすれば致し方ないのだろう。空白を映すということに、そうは耐えられないだろうから。でも観客から見ると、ここは間をとってほしいところだった。
ほかにも、舞台を観客席から見るのとは違う、2カメ、3カメからの映像が入って、本来なら斜めを向いた役者の仕草を見るところを、正面から見せられたりして、面食らう。
というわけで、ちょっと幽玄を感じ取る環境ではなかったかもしれない。
太鼓や笛、琴などの演奏はよかったので、何か映画館のスクリーンというメディアに向いた工夫の余地はありそうに思いました。
観客は、私以外は全員リタイア組と思しき高齢者。演目を考えると、若者はさすがに見に来ないですかね。