「第三夫人と髪飾り」
チャンアンというベトナムの世界遺産の地を背景に描かれる、秘境の裕福な家族のお話。映像がもうそれは美しいです。近代の騒々しさとは無縁の、古き良き豊かな農村風景。
監督の曽祖母の体験に基づいているそうなので、それくらいの時代のお話です。その頃はまだ一夫多妻制が残っていたようで、家族といっても、家主と三人の婦人のもとに多くの使用人を抱え、養蚕業を営む大家族です。
お話は穏やかに流れていきます。第三夫人として嫁いできた少女が、気品、気骨を兼ね備えた第一夫人のもとで、家内のあれこれを経験していく様子を描いていきます。
穏やかなりに波乱や秘密もあり、なだらかな起伏があります。が、この作品のいい点でもあるのですが、黒い感情はありません。いや、あるいは、第三夫人の中に芽生え始めていたかもしれませんが、それは誰か人に向けられたものではなく、女を柔らかく束縛する目に見えないものに向けたものです。。
その感情は、家主の息子に嫁いできた少女の悲しい運命に触れて膨らんでいき、自分が生んだばかりの幼子への哀しい想いになっていきます。
女性監督らしいというと失礼かもしれませんが、こういう作風は男の監督には作れないかもしれません。第三夫人と対照的に、活発な第二夫人の女の子が、長い髪を自分で切って朗らかな笑顔を見せていたのが救いといえばそうでしょうか。
男が振るう暴力は人の生死を左右しますが、女は異なる方法で,日常的に生死を司っている、という観念が浮かびました。
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