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2019.09.29

「ある船頭の話」

作品の背景にいろいろ物々しい前置きがついている。
まあ、それはそれ。

自分としては、好きな方向性の作品。
言葉を使うのは、最も言いたいことがある場面のみ。
人物の背景や時代の空気はほぼ映像のみで描く。説明的な台詞はない。

清々しくていい。


人の声も清々しい。山あいの穏やかな川面に、人の声が少しこだまするように力強く大きく響く。
こういう効果は、ちょっとほかの作品では見られない。

日本の懐深い自然の記憶を呼び覚ます。


砂漠や草原のような物理的な広大さとは違って、むしろ限定された空間の中に、無限の広さを含んでいる、我々のふるさとの景色。フラクタルな重なり。

それは演劇的な空間でもある。


* * *

平均的な映画なら、この作品が扱った時間の流れを、説明的な台詞で背景として圧縮解説して、そこから何か発展させて事件を描くという感じになりそう。そうすると確かに、劇的な感情を呼び起こしやすいのかもしれない。よく見る典型だ。

本作はそういった速い流れに乗らず、ゆっくりと、何かが起動する部分だけを扱う。
思えば、流れ着いてきた少女の物語も、船頭の物語の以前にあったはずだ。
そうして、何も変わらなかったものが、玉突きのように動き出す。

それだけか、と思うかもしれないが、その細部の中に、大切なものが・・

あるかのように描いている。
あるのだろうか。
あったはずだ。

船頭は変わってしまい、元に戻ることはない。
我々もまた。

* * *

そういう感じの映画でした。

近代が肯定してきた中心的な価値と、それが捨象してきた価値との相克、と安易に整理してしまった瞬間に、何かが手からすり抜ける感じがします。

さて、大切なもの。それは何だろう。

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