「ガーンジー島の読書会の秘密 」
GoogleMapsでガーンジー島を探すと、フランスに近い位置にあるようです。https://bit.ly/2ZFdTqk
風光明媚な島を背景に、第二次大戦終結後も島に残ってしまった戦争の影を解きほぐすお話。
ロンドン在住の女性流行作家が、ふとした縁でこの島の読書会を取材に訪れ、その成り立ちや活動を調べるうちに、戦争で行方がわからなくなった創立者の女性を巡って、口を閉ざそうとする島の人々との間に葛藤が生まれます。
もともと華やかな都会からやってきた作家に対する多少の反発や負い目があった島の人々ですが、読書会での交感を通じて作家との絆が深まっていきます。作家の方の、島の生活に同化しようとする柔軟さと、島の人々の、読書で培った教養とが、両者の結びつきを確実にしていきます。
徐々に、隠されていた過去の出来事も語られ、行方不明の女性については、作家の婚約者の助力で判明し、作家は島の人たちに迎え入れられる存在になっていきます。
この辺りの、頑なな関係が少しづつ打ち解けていくときに、本というものの力が大きく影響していることが、読書会を題材にした本作の目玉でしょうか。
取材も終わり、都会へ帰った作家ですが、ここからが物語の真骨頂。彼女の人生の選択のお話になりますが、そこは見てのお楽しみ。とてもよい味わいの結末へ向かっていきます。
以下、ちょっとネタバレの追加です。
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この作品の後味の良さは、もちろん、作家と純朴な島人との絆の深まりからきているのですが、それ以外にもいろいろ楽しめます。
例えば、作家の婚約者は、作品によっては憎まれ役にもなり得る立場ですが、この映画ではナイスガイ振りを大いに発揮しています。ロンドンの社交場の場面をみていると、金持ちの優男でしかないのですが、電話に出るときの仕事場の様子、婚約者を迎えに来るときの手段、などなど、憎たらしいくらいの実力を醸していながら、彼女に対してはたいへんジェントルです。ニクイですな。
残念な結果の後、一度取って返してシャンパンをビンごと攫っていくシーン。力づくでも攫って行きたいのをこらえるのと、この後のやけ酒とをひとつのアクションで表現して、この男の真実味をとてもよく伝えています。本作はこうした光る演出が随所にあります。
行動も所持品も逐一が「王冠のよう」で、庶民の暮らしにそぐわないところはあるものの、それは彼のせいではありません。
また、作家を支える編集者。この男もなかなかよいです。ゲイということで、女性の作家も忌憚なくあれこれ頼ることができる、使い勝手のいい設定です。裏方として作家のビジネスを支え、心の友、理解者であり、古き良き時代のいわゆる編集者という像を彷彿とさせます。
この二人の男などは、どこの名作少女漫画なのかと思うくらい、キャラが立っています。
お話の本筋に加えて、こうした登場人物たちのおかげで、作品の幅や深みが大いに増している良作でした。
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