「ワンス・アポン・ア・タイム・イン...ハリウッド」
これは、傑作という言葉とは少し違う気がするけど、とてもいい映画だ。それだけは間違いなく言える。
辛い境遇の中に、友情とか愛とか、温かい気持ちが満ちている。特に最後の方がそうだ。
タランティーノの作品は、もちろん全部見てはいないけど、いつも多少殺伐としたところがあるように思えた。映画の技法としてではなく、登場人物や作風が醸し出す空気が。
ところが、本作は・・・
描く対象を大切に慈しむような、この雰囲気はどうだ。タランティーノ、とうとう大成したのだろうか。
いや、もちろんこれまでのタランティーノの殺伐感は、本作においてもヒッピー達に色濃く表れてはいる。けれども、それは本筋を際立たせるために対置されるにすぎない。
シャロン・テートという人は実在の俳優さんだそうだ。カルトな事件に巻き込まれて悲惨な最期を遂げた。そういう背景を取り込みながら、事実とは違う、幸せな暮らしぶりを描き出している。
デジタル技術に席巻されつつある業界の中で、まだアナログが主流だった頃を、そのように描きたいと、彼は思ったのかもしれない。
デジタルネイティブな世代に、この作品がどう響くのかはわからないが、ウェットなもので世の中が満たされていた頃を、これほど印象深く掘り起こしてくれたことに、感謝したい気持ちでいっぱいです。
これはひょっとすると、私的な映画なのかもしれません。映画人タランティーノの心の裡を覗き込むような。。