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2019.08.17

「アートのお値段」

扇情的なタイトルだけれど、アートって何だろうという素朴な疑問に絡めて、頭の体操をさせてくれる作品、くらいに思っておけばいいだろうか。

アートは投資だというコレクターがいて、この意見はわかりやすい。それ意外の意見は・・あんまり目立たなかった。みんな、これこそがアートの本質だ、みたいな明言は避けていたように見えた。手掛かりになりそうなことは言っているのだけど。

まあ、人を人たらしめている活動のひとつ、くらいに漠然と思っておけばいいのかな。


過去の巨匠の作品が、徐々にオークションに出てこなくなって、アートを取引する市場は一時期、衰退に向かっていたそうな。ところが、現代アートというものが脚光を浴びるようになり、富裕層が世界的に増えて、アートを株や不動産と同列に扱うように世の中が変わってきたという。特に、銀行がアートを分散投資先のひとつとして薦めるようになったという話には驚いた。子供のころ学校の美術の時間に習った素朴なものとは、いまや全く異なるものに変貌しているようだ。かなり作為的な感じがしなくもないが、金持ちが金の使いどころを求めてということなら、まあいいのじゃないか。チューリップの球根と同じだろう。

ところで、投資家が作品を私有してしまうと、多くの人の目には触れなくなる。美術館に置けば金持ちも貧乏人も等しくアートに触れることができるのに。

それについて、アートを創る側の人たちには忸怩たる思いもあるようだ。精魂傾けた作品が、誰にも見られず、市況によって価値が上下する株と同じなんて、簡単には受け入れられないだろう。

もちろん、中にはこの状況を活用する人も出てくる。ジェフ・クーンズという人は、工房を構えて多くの職人を雇い、大作を計画的に生み出していく。ルネッサンスの芸術家が棟梁として同じ手法をとっていたそうだから、あながちおかしなやり方でもない。クーンズの場合は更に、ラグジュアリープランドの形成を明確に意識しているように見える。村上隆もそんな感じだろうか。世評は二つに割れているらしい。
もっとも、クーンズの場合、公共の場に置かれる巨大なオブジェも多いようだから、必ずしも投資家向けの作品ばかり作っているわけでもなさそうだ。

他の芸術家たちは、いかにも芸術家というスタイル。一人で制作し、金にはあまり縁がなく、何かに問題意識を持っているか、自分の感性を迸らせるか、手練の技を極めるか、それぞれのやり方で、人の人たる何かを表現しようとしている。

映画を見終わって思うのは、アートのすそ野が広がるのは、いいことだなという印象だ。人の活動を純化したものがアートなのだとすれば、そして、人が最低限生きるための生産活動に使う時間が徐々に少なくて済むようになっていくならば、アートの言葉で括られる分野はもっと広がっていくのだろう。

なんだか、わかったようなわからないような、いつもそういう気分になります。アートというものを考えるとね。

 

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