「Girl ガール」
トランスジェンダーというものについて、少なくとも映画の世界では、前置きや説明は不要な時代になっている。だからお話は、その先に集中できる。
体は男性で心は女性の主人公ララは、バレリーナになる夢を持っている。そのためには、女性の体になること、バレーのレッスンについていくこと、の2つを同時に満たさなければならない。
女性の体になるためには、医者の勧めに従えば、体力を付けて手術をする必要がある。
けれども、バレーのレッスンは体力を消耗する。バレーに取り組み始めた時期が人より遅いララは、人一倍練習が必要だ。
2つの相反する要求の間で、ララの心は乱れ、体は弱っていき、念願の初舞台を目前に倒れてしまう。
そこでララが選んだ道は。。
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トランスジェンダーの対語は、シスジェンダーと言うそうだが、ララの悩みの深さや、倒れた後の選択には、シスジェンダーにはなかなか理解の難しいものが含まれている。
身体的違いは、周囲の奇異の目を生む。ときにはいじめに近いことも起きる。シスジェンダーどうしの間でもあることだから、大袈裟に考えても仕方がないのだが、細かい疎外感が積み重なってくると、やはり心の負担は大きい。
救いは、周囲の気遣いの温かさだ。家族も、医者も、バレー仲間も、教師も、彼女を変に遠ざけたり特別扱いはせず、普通に、いや普通以上に温かいまなざしで接している。
起こりがちな偏見や差別のドラマを、この作品は慎重に取り除いて、伝えたいことが純粋に観客に届くように配慮している。
シスジェンダーにはわかりにくい部分が、それなりに伝わってくる作品でした。
それにしても、主演のビクトール・ポルスターさん、現役ダンサーだそうですが、性別不明の美しさですね。