「さらば愛しきアウトロー」
「さらば愛しきアウトロー」
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ロバート・レッドフォード引退作。きっと過去の出演作の様々なシーンがさりげなく散りばめられているのでしょう。よくわかりませんが。
俳優さんの引退作というと、やはりその人の役柄を表したようなものになるのでしょうね。樹木希林の引退作は一体どれなのか悩ましいけれど、例えばハリー・ディーン・スタントンの引退作「ラッキー」は、その人柄役柄をよく反映したものだったかと思います。
本作はなんといっても、二枚目俳優のかっこよさが、年輪というフィルターを通して醸し出されるのを見せてくれるのがよいです。過激なアクションではなく、経験を積んだ人間の穏やかさとスタイル、礼儀正しさと茶目っ気。
いくつもちりばめられたパトカーとの追跡シーンの、なんと牧歌的で楽しげなこと。
人生も晩年を迎えた女性との淡いロマンスも、二枚目俳優には欠かせない彩です。ここでも穏やかなペースが支配していて、安心していられます。
その彼女との会話に中に、晩秋を迎えた人間にとって大切な言葉が含まれています。子供のころの理想に向けて近づいていくこととか、あるいは、幸せであること、とか。
17回目の刑務所暮らしに訪れた彼女に、今度は最後まで居たら?と言われて、脱獄は諦めおとなしく従うところも、この主人公の本質的な穏やかさが見て取れます。そういう人物なら、確かに銀行強盗も人生の楽しみという主張に頷けてしまいます。
原題は"The old man & The Gun"ですが、この銃というものが、本作では裏のテーマなのかもしれません。銀行強盗でさえ、銃に頼らず、しかし銃を意識させることで事を思い通りに運ぶ。
戦わずして目的を達する。その人間らしい知性と楽天主義を、レッドフォードの皺深い顔を見ながら思いました。