「アルキメデスの大戦」
これは力作。
原作のアイデアだろうと思うけれど、見てよかった。
戦争が負けで終わった記念の日だし、何かそれ関連の映画を見ようと思ったけど、悲愴で重々しい作品は見当たらず、代わりにこの軽そうなのがあった。
正直なところ、あまり期待していなかったのだが、若者が見出すファクトが老人の妄想を打ち砕くようなストーリーなら見てもいいかなくらいの気持ちで行った。
そうしたらものの見事に、いい方に裏切られました。
たしかに9割方は、ほぼ予想どおりの展開。戦艦か空母か、新造艦をどちらにするか二派に分かれての攻防は、適度に山あり谷ありで面白かった。
それだけなら普通、ということで終わっていたのだが・・
最後の1割は息が詰まる。
空母派がいったんは勝利するのだが、若者の純粋な思いも天才級の才能も、結局、老人の深い読みの前に首を垂れることになるのだ。年寄を舐めたらいかん。
しかもその読みは、まさに若者の思いと同じ方向を指し示しているのだから、文句の付けようがない。
もちろん、史実から逆算して組み立てたフィクションだろうけれど、こうも上手く組み上げられると、もう脱帽です。
それに、主戦派にしろ反戦派にしろ、表向きはともあれ、それぞれに内心複雑な考えがあっただろうことは想像に難くないのだから、こういう話も十分あり得たかもしれない。
そう思わせるのに成功している点で、この作品は力作です。
山本五十六は反戦派だったとされているけれど、軍略に長けた者がその才能を発揮する場を得られるならば、思わず熱くなるのは当然だ。
「いや、お前は反戦派だと思っていたけれど・・・」のあとに、空母派の親玉がぽつりと言った台詞。そして戦艦派の技師長の透徹した未来予測。この対比が本作の白眉だろう。
戦艦=主戦派、空母=反戦派の図式が、鮮やかに崩されます。
たいへん満足しました。
そうそう、イアン・マッケランがなぜここに、と思ったら田中泯。とてもよかったです。