「メランコリック」
これ、ちょー面白いです。
営業終了後の深夜の銭湯を、殺人の場貸しに、という奇想天外な設定だけれど、実際に見せられてみると、あつらえたように合ってるなと、つい思ってしまいます。
そんな奇抜さにもかかわらず、登場人物たちの魅力、とりわけ主役の茫洋としたキャラクタに引き込まれ、まるでこれが日常のひとこまに過ぎないような錯覚に陥ります。
殺人業という奇抜な要素を組み込みつつ、日常の悲喜こもごもを丁寧に描く。なんてユニークな着想でしょう。
以下ネタバレです。
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初めてもらうボーナスの喜びがあり(死体処理の報酬です)。
仕事では自分より下だと思っていた同僚がなぜか上司に打ち合わせに呼ばれて妬ましさを感じたり(誘拐と殺しの相談です)。
仕事が仕事だけに、それ嬉しいの? とか、それうらやましいの? とか、反対の感情とせめぎ合って、腹の皮がよじれそうです。
高校の同級生の彼女が、また可愛いのです。頭はいいのに奥手な主人公との取り合わせは、定番中の定番ですが、そう思わせないくらい自然です。ディテールがいいんでしょうか。
そんな風に、仕事に恋に打ち込んで過ごしているうちに、波乱が起きます。殺しのプロの先輩の死。
そこから事態は大きく動いていき、今度は若者たちの純情に対する大人たちの裏切りがあります。物事を変えようとする若い力と、変えるなんてとんでもないという既得権がぶつかります。チャレンジングな人なら、結構身につまされるかもしれません。
結局なんだかいい塩梅のところにとりあえず落ち着いて、永遠の一瞬の輝きみたいなものを映して映画は終わります。
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この作品は、空想的な設定の上に、自在に変化していく筋書と、リアリティのあるディテールがしっかり乗って、稀有な面白さを生み出していると思います。
無名な作り手たちのユニークな経歴も、たぶんたっぷり注入されているのでしょう。
上映館がまだ少ないのですが、必見の一本としたいです。
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