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2019.07.06

「ワイルドライフ」

静かなラストシーンが胸に迫って、見終わった後で涙が溢れてきてとまらない、素晴らしい作品。以下ネタバレは読まずに、劇場で観るのが吉。

* * *

このラストシーンは、なんでもない家族の肖像写真なのだけれど、そしてそれがエピローグ風に導入されているために、見る方は不意を突かれるのだけれど、この最後の絵が静止した瞬間に、これまでの来し方、これからの行く末が、すっと凝縮する。

もう元には戻せない美しい家族の過去が切なく胸に迫ってくる。これからどうなっていくのか、違う道を歩み始めて不安げな両親の間に入って、まだ14歳の少年の瞳が真っ直ぐ静かに輝いている。家族三人の道が交わって分かれていく二度とはない瞬間。

その何気ないけれど特別な一瞬を捉えて、映画は終わります。

最近の映画は、映画館の中で作品が完結して、後味を残さないように「配慮」するものが多いと思うけれど、この作品は、見終わった後の方が胸に迫ってくる。監督も、俳優も、スタッフも、本当に見事。特にエド・オクセンボールドが出色です。

今年のわたくし的BEST3間違いなしです。

* * *

ま、わたくしジュブナイル好きですからね。
キャリー・マリガン大好きでジェイク・ギレンホールも好きですし。
ちょっと、一点集中で褒め過ぎましたが、あの一瞬がこれほど輝いて見えるのは、そこまでの中身がこれまた素晴らしいからです。

手短に言えばこの作品は、世間的な成功とは程遠い普通の一生を送る大多数の核家族に共通の、幸せと不幸せを拾い上げているのだと思います。倦怠期を乗り切れなかった二人の失敗と、その結果ばらばらになっていく不幸を。それ以前の輝ける幻想と一緒に。

覆水盆に返らずのとおり、壊れた家族の関係は元通りにはなりません。でも少年がいます。きっと元通りに近いところまで両親を引き戻せると、信じているかどうかはわかりません。

でも、彼が知っている両親、その背中を見て育った良き人々の思い出を、せめて1枚の写真に残しておきたい、それが彼のこれから行く道の支えになるでしょう。あの一枚にはそういう意味があると思います。

健気という他に言葉を思いつきません。両親は、いつの間にか大人になった少年に、少し戸惑ってもいます。じんわりきます。

いやー。いいもの見せてもらいました。

少し付け加えておくと、両親の仲を裂くことになったお金持ちの老人は、これまた悪人ではありません。それどころか、母親と少年を夕食に招いた折に、少年に語って聞かせるエピソードからは、それなりの人物が伺い知れます。その彼が、しかし少年のつましい家族を壊すことになった。彼の罪でしょうか。たぶん違います。ただ知的でWILDなだけ。少年はこの枯れない老人のWILDも受け継ぐことでしょう。

そういう奥行きも備えた作品でした。

【追記】
あらためて、公式サイトの監督の言葉を読むと、このラストシーンが明確に像を結んだところから、映画化が進み始めたとのこと。納得です。

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