「誰もがそれを知っている」
じんわりといい映画。
前宣伝を見ると、家族の秘密みたいな売り込み方で、確かにそれでお話は緊張感を持って進むのだけれど、それ以上に、農園の男の最後の、長年の胸のつかえが取れてさっぱりしたような表情がいい。
以下ネタバレ。
誰でも何かしらの制度的な束縛の中で生きていて、それは今ではあまり口にされなくなった身分というものの影なのだけれど、農村となれば土地の所有権をめぐって、それが多少濃く表れるのだろう。
そのしがらみの中で、この農園主と周囲の人々が、どんな過去を生きてきたかが、ある事件を切っ掛けに少しづつ露わになる。
その感じが、どろどろせずに、かといって突き放しもせず。
同調も批判もせずに、いい塩梅で見せてもらえて、じんわりくる。
理屈と違った生き方の筋かもしれないが、身分違いの恋の始末をつけたこの男の感覚を、覚えておきたい。
そういう気持ちにさせる一本。
話だけ聞くと、少し前の時代の大家族のイメージかと思っても不思議はないけれど、ドローンで婚礼の記念撮影をするシーンを入れて、まぎれもなく現代に通じる話として見せているのが上手いと思いました。