「ハイ・ライフ」
中心人物である憂いのある男モンティは、言ってみれば修行僧。実際、作中でモンクと呼ばれたりします。天野喜孝の絵がそのまま形になったようなストイックなイケメンですな。
一方、ジュリエット・ビノスさん(55歳)演じる女性医師ディプスが見せる濃ゆいエロスが、作中の端々で振りまかれます。いやーフランスの女優さんて、マリーヌ・ヴァクトさんといい、このビノスさんといい、やっぱりすごいエロいです。
そのエロスは、下心ある観客の集客のためではなく、この作品の中心テーマでもあるようです。真面目なのです。
始めの方は、ちょっと我慢が要ります。この作品はいったい何を言いたいんだろう。。相当長く疑問が続きます。なにしろ始まってしばらくは、シングルファザーの子育て日記が延々続くのですから。
そのうちだんだん熟女のエロスが見られるようになって持ち直します。おお!という感じ。実はそこがこの作品のひとつの重要なポイントです。真面目なのです。
なんだかんだ言っているうちに赤ん坊が生まれては死んで、とうとうある一人の女の子の赤ちゃんが、放射線飛び交う宇宙空間で生き延びるところまで漕ぎつけます。それがウィロー。柳という意味ですが、ファンタジーの世界では概ね、魔法使いの名前ですね。Will-o'-The-Wispといったら人魂。まあそんな感じです。
他のクルーが全てこの世を去ったあとの廃船に近い宇宙船で、このストイックな父親と、無垢な赤ん坊は、二人だけの時を過ごします。
やがて、赤ん坊が成長し、若々しい娘に育ったころ、宇宙船は目的地のブラックホールに到着します。
そして、娘は屈託なく、あそこに飛び込んでみようというのです。密度は薄そうだし、きっとうまくいくと。父は苦笑い。
でも、この修行増のような父も、少し人生に疲れたのかもしれません。あるいは娘の屈託のなさに、神の恩寵を見たのかもしれません。娘の案に同意して、二人で小型艇を駆り、次の旅路へと赴きます。映画はそこでおしまい。
* * *
さて、これを見て何を想えと。
たいした意味もないようにも見えるし、人の一生のエッセンスが詰まった、とてもいい映画にも見える。
突き詰めていえば、子を産み、育て、死んでいくことだけが人の一生というものなのでしょう。そこに付加的な悲喜こもごもを見るのは人の勝手です。
映画が終わる少し前、娘が「祈り」という言葉を口にします。
それまでの話の延長には無いはずの何かです。
エロスと死が循環していく永劫の中で、そこから脱却する鍵となる想いです。
その後、父娘は、ブラックホールの向こうの何かに向けて旅立っていくのです。
なかなかの後味です。いい作品を観たなという感じでした。