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2019.03.22

「移動都市/モータル・エンジン」

「移動都市/モータル・エンジン」
http://mortal-engines.jp/
わたくしのツボにぴったりはまりました。
奇想天外な設定と素晴らしいファンタジー。
それらを背景に描かれる、人の運命、妄執、業欲、野心、謎、愛。
そういうものが詰まった物語。
シュライクをめぐるお話がとりわけよいです。
映画というのは、たいていの要素が使い古されたパターンですが、それをリフレッシュして新たな命を吹き込めるかどうかが作品の良し悪しを分けるものです。この作品はそれを上手くやって見せてくれた良作だと思います。
スターウォーズ外伝の「ローグ・ワン」は、物語が描かれていなくて残念極まりない作品だと私は思うのですが、それと正反対で、本作には物語があります。主人公の荒んだ心が、いくつものエピソードを経ながら少しづつ変わっていくのが感じられる、そういうものをこそ物語と呼びたい。
興行的には大コケしているらしいのが、残念でなりません。
お話のなかの役回りと、登場人物の肌の色とがあまりにステレオタイプなのが敬遠されたのでしょうか。それともヒロインの顔の傷に違和感があるのでしょうか。あるいは、宣伝の段階で都市の壮大なお話だとミスリードしたのが間違いだったのでしょうか。
どれも軽くスルーしてみれば、とてもいい、人と人との物語だと思うのですが。
ヘラ・ヒルマーという女優さん、素顔と全然違う顔で出ていますがよかったです。
* * *
ところで、本作に登場する移動都市というものは、作中での位置づけは明らかに悪。一方で、壁というものは善であることになっている。
まるで行き過ぎたグローバリズムに対する反動、反省を言い立てているかのようだ。
グローバリズムの是非は容易には決められないけれど、たいていの物事は程度問題だから、行き過ぎれば悪の面が目立つ、というくらいの理解をとりあえずはしておこう。
悪役の父と抵抗する娘が争う場面の台詞に、それは凝縮されている。父が、これは世の中に必要なことなんだ、と説得しようとするのに対して、娘は、いいえあなたは権力が欲しいだけ、とにべもない。まあ、事実そうなんだろう。
少なくとも、グローバリズムというものを、単純に善いものと信じる時代は既に終わった。米国にトランプという大統領が登場した意味は、そういうことなのだ。
ただ、作り手は最後を希望で締めくくってもいる。
飛行艇で世界を見て回ることは善。権力と収奪ではなく、まずは観察と理解。
そういう未来はまあ確かに希望が持ててよいかもしれませんね。

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