「ジュリアン」
「ジュリアン」
https://julien-movie.com/
殺人事件の結構な割合が、家族によるものだと聞いたことがある。愛憎の果てにということなのかどうか。
この作品は、殺人まではいかないまでも、うまくいかない家族内のトラブルを、ちくちくするような居心地の悪さと共に描き重ねていって、最後はかなり衝撃的な結末に導いている。
両親の不和の間で辛い思いをする少年の心の痛みに、見ている方も共鳴してとても辛い。
家庭の内部を描く話では、常に微妙な綾があって、夫にも妻にも、あるいは子にも、少しづつ不和の責があるというものだと思うのだが、この作品は、どうも夫の分が悪い。というか、この男は少し頭がおかしい。
おかしさの本源は、他者への依存いうことに尽きるだろう。マッチョな家長を装おうとするほどに、逆に子供や妻への依存が他人の目には明らかになっていく。
加えて、身勝手な思考。相手を慮ることがなく、力づくで思い通りにしようとする。そして、それらの行為に、これまた身勝手な理屈をつけて正当化したり、それどころか自分の頭の良さだなどと言ったりする。
たぶん、変な自己正当化や過剰な自尊意識がなければ、粗暴ではあるけれど多少可愛げのなくもない奴くらいで済むところなのだが・・不器用というか。
警察に取り押えられながら「俺の妻なんだ」と泣きわめいて訴えるのがこの男の自己正当化だが、夜中に押しかけて鍵のかかった扉へ猟銃ぶっぱなして蹴破り押し入る行為が、妻相手だからと言って正当化できると思っているのが、滑稽を通り越してそら恐ろしい。
誰よりも救いが必要なのに、自己正当化と自尊感情ゆえに決して救われない。それがこの男だ。
世の中にはそういう人が一定割合でいるものなんでしょうかね。「人の振り見て我が振り直せ」です。
そうそう、後で気付いたけど、ひょっとすると、この男は少し若年性の呆けがあるという設定なのかもしれない