「旅するダンボール」
いやー。本年初っ端からすげーいい作品見ちゃってしあわせ。
<段ボールアーティスト>島津冬樹のドキュメンタリー。
人が価値を生み出すとはどういうことか、ということを、シンギュラリティが視野に入ってきたこの時代に、くっきりと示してくれる良作です。
私のようなおっさんは、ダンボールアーティストというと日比野克彦なんだけど、その当時は、ぎらぎらした暑苦しい奴が変なことしているくらいの認識だった。たいへん申し訳ない。
でも、彼のようなダンボール愛は、実は多くの人が持っている普遍的な感性でもある。何の変哲もない素材が、人が少し手を加えることで、人々が共感する価値あるものに突如変貌する。そのダイナミックな過程に、真に人間的かつ創造的なるものを見出して、人は感動するのだ。
この映画の島津冬樹さんは、日比野さんとは違って、スマートですっきりした感じ。言っていることも比較的すんなり腹におちてくる。全く無意味なオブジェではなく、財布という実用性を持った形にすることで、独りよがりで先鋭的な芸術の匂いを消しながら、人と人の関わりという本質にマイルドに気付かせる。これこそがアート。
平成の停滞を通じて我々一般大衆が得たこの心境の変化が、つまり時の流れであり、文化の成熟ということなんでしょうかね。世界の潮流でもある。
この島津さんの内心が実はどうなのかはわからない。
けれども、それに関わりなく、映画の作り手は巧みにひとつのストーリーを提示する。
はじめは、ダンボールに印刷された様々な絵柄や色合いに美を感じ、そのデザインの背景に知られざるストーリーを空想する、少年コレクターの姿を描き出す。
続いて、そのデザインをまるで写真家のように切り取って、財布という別の姿に再生する、クリエイターへと進化させる。
さらに、その創造的な活動に取り憑かれて、ダンボールデザインのルーツを探す旅を重ねるうちに、人に歴史ありみたいな感動物語に偶然立ち会って、話は最高潮に。この辺り、かなり日本的なしっとりした感性。
そして、活動の舞台は世界へと広がり、少年が取り憑かれているものに、アップサイクルという言葉と理念を与える(そういう概念を初めて知りました)。このあたりは西洋的な知性。
途中、実は最大手の広告代理店にしばらく在籍していたことや、そこでの常人離れした行動と周囲の反応なども交えて、この島津という人物の像に奥行きを与えるのも忘れない。
淡々と事実を追うだけのドキュメンタリと違って、エンタテイメント性にも気を配っている。
テーマよし、物語よし、感性・知性ともよしの、満足度の高い1本でした。