「蜘蛛の巣を払う女」
スピード感のあるアクションがすばらしい。
そして命を的のシーソーゲームの末に主人公側が追い詰められた後の、秘密兵器による鉄槌に痺れます。いや、そんなとんでもない武器をどこから調達したのよという感じで、ズガーン、ズガーンという銃撃音が腹に響きます。「ザ・コンサルタント」でもこれ見たなあ。カタルシス満点です。
もっとも、シーソーゲームの最中に、何度も相手にとどめを刺す機会はあったわけだから、もっと効率よくやっつければいいのにと思わなくもない。まあ、それをしないのが、冷徹なように見えて情を知るリスベット・サランデルであり、ドラゴンタトゥーの女の物語なんでしょうけどね。やってしまったら、妹と同じ人種になってしまう。
その妹カミラが、本作のキーです。前半は表に出てこないのですが、後半にかけて、加速度的に存在感を高めていきます。ロシアマフィアのボスらしく冷酷な顔、姉妹の過去を振り返るときの哀愁を帯びた顔、人を騙すときの昏い喜びに満ちた顔、サイコパスらしい無表情な顔、様々に使い分けるシルヴィア・フークスさんの演技、素晴らしいです。本作は、アクションもすごいけれど、この姉妹のドラマもしっかり作られていることで、アクションとドラマの高度なバランスを達成していると思います。
父親による成人前の娘たちに対する虐待というのは、欧州の北半分くらいでは割とよく使われる材料という印象ですが、この作品ではその描き方も上手い。虐待の場面自体はもちろん描かないのですが、それを予感させるシーンとして、全身タトゥーの母親らしき全裸の美女がちらりと廊下の向こうに消えていくシーンを挿入しています。たったそのワンカットだけで、ああ、この父親はそういう奴で、母親は子供たちを護る気はないのだという絶望が理解できます。
ほんと上手い。サイコーです。
世界中の核兵器を操作できるとてつもないソフトウエア、とか、北欧と米国とロシアのパワーゲームとかは、お馴染みの小道具ですが、本作では、結局ロシアが敵で欧州と米国は共闘するのかと、そう思わせておいて実は、北欧はロシアとつるんでいるとか、目まぐるしく展開していく話の筋が楽しいです。飽きさせない。
そして、最初に描かれた、女性たちに対する人権蹂躙に裁きを下すリスベットの姿から、最後に、その殺人鬼である妹こそ、蹂躙された女性たちの象徴であることに気付かされて、なぜ助けにこなかったとなじられてたじろぐリスベットまで、見事にお話は回収されます。
問い詰められたリスベットが最後にカミラに言った一言は、とても重いものだと思います。
いろいろな点で、高度に練り上げられ複合された作品で、2時間たっぷり身じろぎもせずに観て、たいへん満足でした。
あそうそう、原題は、”The Girl in the Spider's Web” なので、これは蜘蛛の巣の中の女、むしろカミラを指しているように思えます。リスベットはもちろんシリーズものの主人公ですが、この作品の中心にはカミラが居るので、原題のままでよかった気もしますが、邦題は「払う女」として、リスベットを指すように変更しているように見えます。
まあ、その方が確かにタイトルの語感としては良いかもしれませんね。