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2018.10.13

「運命は踊る」

時系列を前後させることで、ある感情を際立たせようとしたと感じられる。脚本技術に優れた作品という印象。

その感情とは「後悔」と、もうひとつ。

確かに、運命の綾も描かれてはいるが、それよりも、この自信に満ちた成功者である壮年の男の、内心の後悔が、強く出ている作品に思える。

家宝の聖書をアダルト雑誌と交換したこと。
自分が踏むはずだった地雷を別の者が踏んだこと。

この男の人生の節目のエピソードが、揃って「後悔」を指している。そして次なる最大の後悔が、運命の綾と共に訪れる。

今度のものは最愛の息子の命と引き換えだ。なぜその引き金を引いてしまうのか。押し寄せる後悔の念と同時に、自覚していなかった深い愛情が呼び覚まされる。

不思議なことだ。対象が元気でいるうちはさほど感じなかった愛情が、その者が帰らぬ人となったことで、大きく深く感じられる。

豪邸を引き払って移り住んだ質素な家で、息子の命日に、妻と共に嘆き、笑い、娘を送り出し、そして互いを抱きしめあう、その日常の時間の中に、亡くなった息子への深い愛情が表現されている。

はじめは少し際物かと思いましたが、最後のフェーズでとても深い作品になりました。

【追記】
大筋の流れはそんなところですが、息子の軍隊勤務の様子は、父親側の描写とはっきり変えて、シュールな感じになっています。イスラエルという国の状況に対する風刺でしょうか。凝った構成です。

さらには、主人公の後悔の念を通して、若者の未来を犠牲にしてでも押し通そうとする原理主義、我そのものを、作り手は描こうとした、といったら穿ち過ぎでしょうか。

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