甲信縦断行180812
実に数年ぶりのツーリング。
このところ仕事の出張が増えて、違う街へ行くことへの渇望が満たされていたのと、貧乏暇なしで週末や連休でも東京で何かやっていることが多かったので、すっかりご無沙汰だった。でも先日、バイクのバッテリーが上がっているのに気づいて、これではいかん、となった仕儀。本当は北海道を目指したかったが、直前まで本当に9連休できるのか確定できず、そうこうしているうちにフェリーは満席になってしまういつものパターンで、諦めた。まあ本音を言うと、今乗っているバイクはタンク容量が以前より小さいうえに、ガソリンスタンドの廃業が全国的に進んでいるという話も聞こえてきて、北海道は航続距離的に少し厳しいかもなという不安もあった。結果的には、やっぱり暦通りに平日は要返信メールが何本も飛んできたので、まあ、近場で済ませてよかったのかもしれない。
本当は、それは間違っているとは思うけれどね。
* * *
近頃は早起きの人が増えてきたようで、朝5時発でも高速は結構混んでいたりする。なので今回は一計を案じて、午前2時に家を出ることにした。この作戦は大当たりで、東名は御殿場までずっと快適に巡航速度で飛ばすことができた。首都高から用賀を通過したあtりで降ってきたので、新調したポンチョを着て鼻歌まじり。濡れさえしなければ、雨はむしろ涼しくて助かる。
御殿場で降りたのが、午前4時半頃だったか。SSで冷やし中華など食べてしばらくうつらうつらしつつ、この先の行動を考える。
箱根の源泉の湯にもつかりたかったが、それだと昼前までこの辺りで時間をつぶさなければならない。最終目的地は草津を想定しているので、箱根は今回はパスでもいいか、ということで、5時の声を聞くころには、ゆるやかに北上を始める。河口湖を経由して甲府盆地の石和温泉へ行くのが当面の目標。
途中、忍野とか富士吉田とか誘惑されそうになるけれど、2度行くほどでもないかと思ってスルー。第一まだ店も観光施設もあいていない。午前2時東京発にはこういう副作用はある。
河口湖大橋を渡りながら左手を見ると、何年か前に水涸れで地続きになった六角堂が、いまは元通り水上の孤島になっている。
緩やかな峠を越えると、もう甲府盆地の端に入る。この辺りは桃とブドウの観光農園が多い。幹線道路を通っていても面白くないので、1本筋を違えて農園が左右に続く道を行く。景色はよいのだが、これがトラブルを招いた。後輪が釘を拾ってしまったのだ。
パンクすると、ハンドルが変にとられるようになり、曲がるときは顕著に障害になる。以前、前輪がパンクした時と同じような症状で、すぐに気づいて一旦停止。GoogleMapsでガソリンスタンドを探す。結構遠いのだが、行ってみるか。そこでダメならロードサービスを呼ぶくらいしか手はないだろう。ハンドルをがたぴしいわせながら、時速10kmくらいで進む。枝道で朝早く、カーブもないのが幸いして、特に交通に迷惑は掛けずに走る。といっても空気は徐々に抜けていくので、しばらく行ったところでさすがにもう走るのは無理になってきた。
比較的大きな交差点で止まる。ここの角を曲がって少し入ったところにGSがあるはずだが・・・。しかし一瞥してそれらしいのはない。デイリーYAMAZAKIがあったので、バイクを押して行って、飲み物を買いがてら店のおばさんと立ち話。近くにスタンドがあるか聞いてみる。どうも、あてにしていたのはなくて、ここからさらに数キロいかないといけないようだ。弱った。しかし同時に、コンビニの向かいにバイク屋らしき店が見える。あれはどうだろうとおばちゃんに聞いてみると、なんとなく歯切れが悪い。あまり深く聞かずに切り上げて、店の外へ出る。
さて、時刻は朝7時だ。バイク屋なんて昼くらいに店を開けるのが普通だろうから、行くとしたら無理をお願いすることになる。しばらく迷ったが、だめもとで行ってみることにする。バイクを押して店の前に止め、隣にある戸建ての住居で呼び鈴を鳴らすこと3回。辛抱が実って、扉が開くと、なんでしょうかこれは。すんごいかわいい中学生くらいのハーフの女の子が、興味津々という感じで顔を覗かせこちらを見ている。
いやー。かわいい。なごむ。
おっと、用事があるのだった。驚かさないように手を後ろに組んで、ゆっくりとした口調で、朝早くの失礼を詫びたうえで事情を話す。女の子は目をくりくりさせて引っ込んで、しばらく待たされる。手持無沙汰なので工房の方へ移動して待つことにする。
感情そうな外国製リフトが1台、コンクリート土間に据え付けてあって、年代物風のムスタングが頭より高く持ち上げられている。バイク屋と思ったが、車も修理するのか。その、今はうごかなくなった車軸や、埃をかぶったサスペンションなどを眺めてぼんやりする。ふと、犬のうなり声がするので振り向くと、白いブルテリアが居る。こちらを警戒している様子。しばらく見つめあっていたら、少し張り出してきて、コンクリート土間のくぼんだところにマーキング。おいおい。そんなところに放尿してご主人に後で怒られないか(笑)。ここからこっちへは来るなよということなんだろうか。なんだかこいつとは言葉は通じなくても考えは通じる気になる。またしばらくムスタングを下から見上げていると、こんどは足元に寄ってきてしきりに体をこすりつけてくるので、こちらもしゃがんで頭をなでてやる。よく見ると目が白く濁っている。後で聞いたが、かなりの老齢で目はもうあまり見えないらしい。
そうやって犬と遊んでいるところへ、ご主人登場。見ると、コーカサス系の白人の人だ。
超かわいい女の子といい、狩猟用の老犬との出会いと和解といい、白人のご亭主といい、なんなんだこの漫画みたいな展開は。こんなことあっていいのか。
まあ、それはそれ。修理してくれるというので、バイクのところに案内して、あとはお任せ。日本人の奥様も出てきて、いろいろ世間話に花が咲く。
ご夫婦は東京の仕事場で知り合ったらしい、話の内容からすると外資系の家電メーカーあたりか。職場は普通に英語でのコミュニケーションだったので、ご主人は日本語を覚える機会がなくて、いまでも英語で会話しているとか。それで山梨県の農村地帯では苦労も多いだろうなと思っていると、いろいろその辺りの苦労話も出たり。
話はあちこちに飛んだのだが、なにより、この辺りは人口が東京に比べて圧倒的に少ないとのこと、買い物その他も不便。公共交通機関もないので完全な車社会。子供の学校の送り迎えなどたいへんらしい。学校だけでなく、遊びにいくにも送り迎えが必要だとか。東京からあまり離れたことがない私にはちょっと想像もつかない。
地方暮らしの大変さをいろいろ教わったところで、パンク修理も完了。記念写真を撮らせてもらって、別れを言って出発する。ここから石和温泉まではもうすぐだ。
石和温泉駅には、ワインの販売機があって、地元産の各種ワインを一口300円くらいで飲むことができる。自販機にコインを入れて、飲みたいワインの前へ行き、ボタンを押してチューブから出てくるのをコップで受けるのだ。面白いな。バイクだから飲めないんだけど。
そういえば、ほったらかし温泉というのがこの辺りにあったはず。GoogleMapsで検索するとすぐ近くだ。山の斜面を登っていくと、この辺りも観光農園がずらり並んでいる。その上の方に笛吹川フルーツ公園というのがあって、官民一体でフルーツ推しだ。そのまた奥まで進んでいくと山頂に近いあたりにほったらかし温泉がある。途中、キャンプ場の案内もあったので、温泉の受付で聞いてみると電話番号を教えてくれたので、ダメ元で掛けてみると、空きがあるというので即予約。宿の確保もできたので、ゆっくり温泉につかることにする。
露天というも愚かなほど、吹き曝しになった浴槽から、甲府盆地が一望のもとに見渡せて、その向こうには富士山が。いうことありませんね。今日は曇りだけれど、晴天のときは素晴らしい眺望だろうな。
風呂は日の出前から夜半までやっていて、朝昼晩それぞれの絶景が湯舟から楽しめる。写真はちと障りがあるので、風呂の外から撮った。
キャンプ場の方もよい眺め。
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