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March 2018

2018.03.31

「大英博物館プレゼンツ 北斎」

大英博物館が開催した北斎の企画展に即して、北斎という画家と作品を描写した映画。企画展の裏話のような楽屋オチは一切なく、北斎という人間を、その膨大な作品を通して読み解こうとする試みに集中していて、とても好感が持てる。

実際のところ、よく知らなかった。すごい人なんだなということは漠然とわかっていたけれど、せいぜい富嶽三十六景がお茶漬けのカードになってたなくらいの理解しかない無学無教養なのだ。

それが、この映画を見ると、彼の画がどんな思想に基づいていたか、とか、90歳までの人生でどのような変転があって、それが画にどのような変化、というか進歩をもたらしたか、といったことに触れることができる。ありがたいですな。

彼とその作品群を絶賛する英国人が、映画の中にたくさん登場するのだが、彼らの視点は2つある。一つは、万物に魂が宿るというアニミズムに何かを感じる視点。もうひとつは、年齢を重ねるほどに技巧が熟達し限界を感じさせない精神の自由さを称揚する視点。この二つが同居している北斎の人柄に、英国人はいたく感動したようだ。

まあ、我々日本人としては、比較的普遍的なものだと思うのだが、彼らにとってはそうではないらしい。


それにしても、80歳を超えてからの肉筆画の迫力はすごい。NHKの8Kカメラを持ち込んで、肉眼ではわからない細かなところまで観察しているのだが、その筆致の精密さはおどろくばかり。

ひたすら圧倒されました。
こういうのを映画にしてくれるのって嬉しいです。

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2018.03.30

「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」

”You.. have my support."
素晴らしい一言。

この国王はジョージ6世。「英国王のスピーチ」でコリン・ファースが演じた、吃音の気弱な王様だ。

チャーチルという人は、負けん気の塊のような印象があったけれど、本作では、史実の写真で見るギトついた感じとは違って、人々のサポートを必要としている気弱な人に描かれている。ゲイリー・オールドマンがそういう風にうまく演じている。「レオン」で狂人のような刑事を演じたのと同じ人とは思えない。よい役者さんですね。

お話は、第二次大戦開戦間もないころの英国の政争を映す。チャーチルが、味方の犠牲に心折れながらも、ヒトラーのナチスに対して断固抗戦する方向へ国民を引っ張っていく過程を描いている。

戦時内閣の中で和平論者に囲まれ四面楚歌の中で、徹底抗戦を掲げる彼を支えたのが、この国王の一言。痺れます。本当のところはよくわからないけれど。

今は核兵器のような危険すぎるものがあるから、当時とは違う考え方もあるとは思うけれど、大義というものを常に見据えて、勝ち負けや生き死にとは異なる次元で判断する者こそ、真のリーダーと呼ぶべきなのだろう。

そういうことを教えてくれる良作でした。
いや、チャーチルの映画のはずなのに、国王の方がかっこよく見えました。原題は"DARKEST HOUR"で、チャーチルとはなっていないから、案外そういう理解でいいのかもしれません。

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2018.03.17

「シェイプ・オブ・ウォーター」

ギレルモ・デル・トロは異形を描く作家だ。

人間の世界と異形の世界との間に明確な境界を設けず、重ね合わせながら、人間世界の中の異形と、異形の世界のなかの人間性を描き出す。

そうすることで、本来人に備わっている二面性を浮かび上がらせる。

パンズ・ラビリンスでは、スペイン内戦の非人間性と、そこから逃れようとする人間性の儚さを、悲劇の形で描いた。

その彼が、本作ではロマンスを取り上げて、冷戦の非人間性を背景にしながら、ロマンスを「謡い上げている」。そういうと大袈裟なようだけれど、この作品の温かな感じは、パンズ・ラビリンスのときの哀しく冷たい感じとは違う。

主人公が結局、人間世界の非情や不条理の中に留まることができなかった点では同じなのだが、しかし、本作の結末は、パンズ~と違って温かい。彼はこの作品で、ひょっとすると、死を乗り越えたのかもしれない。

そしてそれは、想いはあっても声を持たない大多数の平凡な人々を力づけ励ますものであるかもしれない。

劇的ではないけれど、じんわりと良い具合です。

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2018.03.10

「あなたの旅立ち、綴ります」

自由な空気がいい。

実は、自由という言葉は作中には一切出てこない。けれどもこの映画の中心にはそれがある。

かなりハチャメチャな展開なのだが、見終わってから、心に残る言葉を拾っていくと、自由を実践するキーワードが浮かび上がってくる。
「良い一日ではなく、本物の一日を」
「大失敗しなさい」
「才能は必要」
などなど

この作品の原題は "THE LAST WORD" 。死にかけの年寄が若者に贈る最後の言葉、というような意味合いだ。けれども、どれがその言葉なのか、作中で見つけようとしてもうまくいかない。作り手はたぶん、わざとそうしている。観客が自分でそれを見つけるように。

最期の弔辞とエピローグが、その答えだ。単純な言葉に置き換えず、行動で示すところがニクい。

わりといい映画なのに、邦題は・・あいかわらずでがっかり。
かといって、いい題がすぐ思い浮かぶわけでもないのだけど。

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2018.03.04

「空海−KU-KAI− 美しき王妃の謎」

傾国の美女というとどんな悪女かと思いがちだけど、楊貴妃はどうも、頭も良くて芸達者で陽気な、誰にも好かれる思いやりのある、ちょっとふくよかな美人だったらしい。wikipediaざっと読んだだけだけど。

その楊貴妃が、玄宗皇帝の寵愛を受けるまでは良かったのだが、一族が過大に取り立てられて専横が激しくなったのが悲劇だった。安禄山の乱が起こり玄宗が都を落ちのびる中で、皇帝に付き従っていた兵士たちからも妃の殺害を要求され、側近に縊り殺された、とされている。

楊貴妃はいわば、一族討伐に巻き込まれた、可哀想な人なのだ。

映画のなかでは、教養ある美人であるだけでなく、思慮深さや気遣いで周囲を明るく温かい気持ちにさせる優れた人物として描かれている。
それだけに、その理不尽な死には無念さがつきまとう。

その無念を材料に、史実とは異なるトリックを仕込み、乱の数十年後に楊貴妃を描いた長恨歌の時代に視点を移して、謎解きに仕立てたのが本作だ。謎解きの探偵役は空海。

謎解きの手がかりとなる日記は、阿倍仲麻呂が書き遺したもの。空海では迫れない、皇帝と貴妃に近い視点を提供して、物語に厚みを付けている。なんて豪華な布陣なんでしょう。

物語の豪華さと同時に、映像の密度も高い。長安の都の様子はロケではなくセットだそうで、たいへんな時間と労力が注ぎ込まれている。これの出来が良くて本物感抜群です。

楊貴妃の死後、伏線が回収されていく部分は、少し長い気もするけれど、悪くない一本でした。

映画の出来とは関係ないけれど、公式サイトのインタビューはもう少しちゃんとまじめに作ってほしい。尻切れトンボになっていたり、コピペが繰り返されていたりで、手抜きが目立ちます。読む人も少ないけどちゃんといるのですよ。

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「ブラックパンサー」

働き過ぎで疲れた頭を休ませるのにちょうどいい、くらいの気持ちで見に行ったら、これが大当たりの快作。古式ゆかしい神話的なストーリーに新しい表皮を与えたら、目の覚めるような作品になった。

これはまた美しい御伽噺だなと思って見ていたら、主要人物の最期のセリフがそのものずばりで、なんだか作り手の意識と繋がった気もしたり。

なんといっても映像が美しい。当然だが全てアフリカ系のキャスト。白人は途中で消える悪役と脇役だけ。これだけでも不思議な空気感があって引き込まれるが、加えて黒い肌に映える衣装とリズミカルな動きと音楽。素朴な風景と超科学が同居するイメージ。そういうものが違和感なく融合していて、新しいです。

洋画といえば白人俳優が中心で、黒人は常に癖のある脇役でしかないものが大多数な中で、黒人の群像をこれだけ正統的かつ自律的な存在として中心に据え、リーダーとしての貌を正面から描いているのは好感が持てる。

ブロックバスター映画の域を超えて、いい作品になっている。

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